06.優越感


集めた枯枝を積み上げて、指先に魔力を集中する。風はない。炎を燃え上がらせることは実はとても簡単で、ただあるだけの魔力と絶対的な暴力を解き放てばいいの。
枝で作った小さな山に、ほんの少しの火を与える。そうすればあとは自然と炎になる。

わかっている。わかっているけれど、何度やっても消し炭にしてしまう。私の大きすぎる魔力で枯木は跡形もなく消えてしまうの。
焦げた地面と空を舞う煤に叫びだしたくなる。でもきっと、叫んだらみんなに心配かけさせてしまう。
だから、だめ。
「もう、いや」
ぎゅ、と爪を掌に食い込ませても、私の魔力は変わらない。例えば魔力の源が私の血なら、立てた爪で皮膚を掻き切って欲しいだけあげるのに。
半分くらいなくなれば、少しは小さな炎が出せるかもしれないのに。
でももう枯木は全て燃やし尽くしてしまった。はやく森に入って、枯木を集めて、今度こそ火をつけないと。
そうしないと、呆れられてしまう。これは私が任された仕事なのに。
大きなため息ひとつ、ついて気持ちに区切りをつけた、ことにする。そうしないと逃げたくて仕方なくなりそうだから。
はやく、森に行かなくちゃ。

「っ!スコー…ル」
振り向いた先にいたのは、両手に溢れるほどの枝を抱えたスコールだった。
いつもと同じ、無表情で私を見つめる。その目に全部見透かされる気がして、怖かった。
「火を、貸してくれないか」
いつもと同じ、低い声で私に告げる。気づいていないはず、ないのに。私が一番恐れていることを言う。
目を合わせられなくて俯いた。成功する自信なんてない。絶対に失敗してしまう。たくさん、とってきてくれた枝全部無駄にしてしまう。
無意味に組んだ手が落ち着かない。
スコールのついた溜息が、重い。
乾いた音をたてて枝が地面に置かれた。崩れて私の足元近くまで転がってくる。
人が遠ざかる、気配がした。
反射的に上げた視線の先、スコールは背中を向けて歩いていた。
「スコールっ!」
距離にして15歩。立ち止まってくれたスコールの手には、枯枝が一束。
「火を貸してくれ」
右手の枝を軽く持ち上げる。枝の先は、顔から30cmも離れていない。
そこに向けて魔力を放てと、本気で言っているの。
信じられなくて何度も瞬きする。
「だめ、危ない」
「なぜだ?」
「だって、私」
「問題ない。この枝の先に向けて炎を放つだけだ」
はやくしろ、とばかりにスコールは片手を腰にあてて待つ姿勢。
だってもし、私が失敗したら。
スコールの顔を、焼いてしまうかもしれない。額にある深い傷跡。それすら見えなくなるくらい、ひどい火傷を負わせてしまう。もしかしたら、スコールの顔、ぜんぶ、私の炎が。
「ティナ」
いつもと同じ、無表情。
どうして怖くないの。
「できるから、やってみろ」
どうしてこんな私を信じてくれるの。
胸元でぎゅ、と手を握りしめる。できるって、スコールが言った。スコールが言ったの。
目を瞑ってイメージする。
そう、フリオニールが大切にしている、あのお花がいい。
赤いきれいなお花。スコールの手にあるのは茎の部分で、私はその先に花を咲かせるの。優しくて温かいのがいい。種は小さいけれど、芽が出て茎が伸び蕾ができればとても大きくなる。
指先に魔力を集中させる。
花の種と同じ大きさ。熱すぎないように、スコールが持つのにちょうどいい温度を考える。
目を開ければ、いつもより少し優しい顔したスコールがいた。




集めた枯枝を積み上げて、指先に魔力を集中する。風はない。火をつけるのは実はとても簡単で、ただ優しく小さく作った魔力を放てばいいの。
あとは適度に枝をくべて、火の勢いを見守るだけ。
でも今日は、東の森が騒がしい。
目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。
たくさんの歪な気配に囲まれて、透き通るような青が揺れている。
思った時には足は勝手に地面を蹴っていて、太くいびつな木々の合間を縫って飛ぶ。
ガンブレードが誰かの武器と交わり鳴いている。響く爆発音。
もうコスモスの加護ある一帯を抜けてしまった。食べれる木の実を探してくるなんて嘘、子どもでもわかるよ。でもそうやってスコールが少しだけ外に出て、私たちの安全を図ってくれてるんだってわかるから、騙された振りをしてるんだよ。
でも今日は、数が多い。
「スコール!」
森を抜け開けた空間、スコールは私の声に偽りの勇者の剣を弾いて距離をとる。背後に迫っていた模倣の義士にヒールクラッシュを食らわせさらに跳ぶ。
血の匂いがした。
スコールの血にも私の血にも魔力なんてこもっていないけれど、手当と称してその血を舐めるのはとても好き。
ちょっと困った顔で私の為すがまま、居心地悪そうに視線をさまよわせるのが可愛いの。
もう怪我しないでね、って何度も言っているけどまるで聞いてくれない。
今日スコールに血を流させたのは、誰。
勇者と義士と、それに兵士に向けて手をかざす。

他の誰にも、できないこと。
指先に魔力を集中させる。あるだけの魔力とスコールに怪我をさせた怒りを込めて解き放った。

「ファイア」










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