08.繋がらない


「アンタなんであんな戦い方するんだ」
眉根を寄せて、それでも視線だけは合わせずに真正面に立ったスコールがそう聞いてきた。長い前髪が額の傷を少しだけ隠している。それでも隠しきれない大きな傷跡に興味がわいて、気づいたら手を伸ばしていた。
けれど指先が額に触れるほんの1秒前に気づいたスコールに、大きな仕草で避けられる。そんな警戒しなくてもいいのにな。別に、殴ろうってわけでもないのに。
「話を聞く気がないのか」
「いんや。聞いてた」
「なら質問に答えろ」
「いや〜あんな戦い方っていうのがよくわかんなくてよぉ」
開かれた距離を足を伸ばして埋めてみる。ぐ、と顎を引いて睨んでくるのが子どもらしくて、微笑ましいってきっとこんな感覚かなと思った。
うん、俺のほうがちょっと背が高い。よしよしこれ以上伸びるなよ。年下に背を抜かされるっていうのはまだ悔しい年頃なんだ。
「だから、EXバーストに頼るような戦い方だ。必要以上に攻撃回数を増やして、自分への攻撃も増やして、EXコアの出現を待って。そこまでしなくても勝てるだろ」
孤高を気取る割にこの子どもは結構心配性だ。
ちょっと説明に悩んで顎に手をやる。自分で言うのもなんだが、絶対に理解できないだろう。だってこれはオレの感覚の問題で、例えば足の小指がすげぇ痒くてもそれが他人に伝わらないのと同じことだ。
かといって折角話しかけてきたスコールに適当に返すのももったいない。だってこれって実はすごいチャンスじゃないか。
伝わらなくてもセイイは示さないとな。

「EXバーストしないと妖精さんがこないんだ」
ストレートに言ったら案の定変な顔された。でも美人は変な顔しててもやっぱ美人だな。なんかあんまり崩れたカンジがしない。
「………アンタ大丈夫か」
「だーいじょうぶだって。オレはさ、こっち来て目覚めて、すごい強くなった。きっと前いた世界より全然強い。でも体が覚えてる、戦う時に頭の中がザワザワして、妖精さんが助けてくれたっていうのがなくなった」
戦っているときに消えない違和感。
想像より引き金は軽いし銃は体の一部のように動くけれど、それは絶対おかしい。足りない部分が満たされるような感覚と同時に頭の中がザワザワしてすごい力がわいてくる、それがオレの戦い方だったはずだ。
今はないその感覚は、EXバーストする一瞬だけ感じることができた。少しでも長く多く感じたくてひたすら青白い光を集めている。
「EXバーストすると妖精さんがくるカンジがするんだ。だから止めない」
そこでスコールは完全に沈黙した。
きっと色々考えてるんだろうなぁ。オレには考え付かないような、難しいこととかオレにとってはどうでもいいこととか、一生懸命考えてるんだろうな。
「スコール」
はっとようやく目の前にオレがいるのを思い出したように顔を上げる。無防備な顔。入って来るなってラインを引いてるくせに、脇がガラ空き。
撥ねつけられる前に顔を両手で包み込む。顔ちっさいなぁ。
引き寄せて傷つけられた額に自分の額をぴたりと合わせる。
「なぁ、わかるかな。ココにもう一人、入ってくるカンジ」
「……っ!!」
閉ざされた視界の外でスコールが身じろぐのが伝わる。頬に這わせた両手を引きはがそうとグローブに包まれた手が抵抗を始めた。
手と腕を掴む程度の抵抗が可愛かったから、ちょっとだけ離れてやる。
距離にすれば5センチにも満たないような近さは、スコールの青い瞳にちゃんとオレが入り込んでるのがよく見えた。
「すごい大事なんだけど」
最初に抵抗された額の傷を親指でなぞる。中心はすこしへこんでいて縁は盛り上がっていた。でこぼこしていて触るとちょっと面白い。他はすべすべなのになぁ。
ぽかんとしているスコールに、一ついいことを教えてあげよう。

「スコールの戦い方は、オレの妖精さんみたいだよ」










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