12.震える指先


きゅ、と噛み締めた唇がじわじわと赤みを増している。俯いているせいで表情は読み取れないが、ブラウンの髪から覗く耳の色は雄弁だ。
あからさまな初々しさに笑みが零れ落ちそうになるのを必死に抑えた。こんなことで逃げられたら勿体ないだろう。今日は逃がしてやる気はないのだから。
スコールはまだ決心がつかないのか、グローブの留め金に手をかけて外そうとしたり、止めたりしている。
「フリオニール……やっぱり、俺」
ようやく顔を上げたかと思えば口から出るのはそんな言葉で。女の子みたいに赤くなった唇が少し開いていて誘い込まれそうになる。
今すぐ鏡を持ってきて自分がどんな表情をしているか見せてあげたいよ。
いつもの誰をも拒絶するかのような冷たい目が潤んで水分が膜を張っている様子だとか、いつもより小さく見える身体だとか、まるで助けを乞うかのような目元だとか。
喉の渇きを抑え込み、スコールが安心する顔を意識してつくる。少し笑ったような柔らかい表情、好きだろう?
案の定ほっと息をつき、目が明らかに安心したと言ってくる。俺は止めようかなんて言っていないのにな。手を伸ばして髪を撫でればうっとりと目を閉じてしまう。
数度、それを繰り返した後に手を伸ばしたのは先ほどスコールが所在なさげにいじっていたグローブで、持ち上げられた手にスコールは不思議そうに小首を傾げた。
捧げ持った左手のグローブの留め金をパチンと外す。手首を抑えて一気に脱ぎ捨てた。緊張のせいかしっとりとした肌を撫でやり、右手も同じようにグローブを外してしまう。
「フリオ……?」
俺を見上げてまた首を傾ける。何も言わずに頭を撫でてやればますます不思議そうな顔になった。これから何をしようとしていたのか、もう忘れてしまったのかな。
スコールの手を取り、服の裾に導いた。視線は動かされる自分の手に釘付けで、頬に手で触れてやってようやく視線が合った。
「脱がせて」
「…………え」
「できるだろう?」
服の裾を掴ませた手を撫でて促す。意味を理解したスコールが目を見開いて、目元が朱に染まった。
俺の手の下でスコールの指は小さく震えていたけれど、嫌だという声は聞こえなかった。










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