13.たそがれ


奇襲に反応しきれなかったのは完全に僕のミスで、右腕と右足がじくじくと痛むのも回避できなかった僕のせいだ。
僕もティナも生憎ポーションの持ち合わせはない。逃げて聖域まで戻るか、仲間を見つけてポーションをもらうかしないとまずい。
どちらにせよ、ここを突破しなければ。
ぐ、と無事な左脚に力を込めた。ティナを守って、はやくここから逃げよう。
「避けて!」
「え」
汚れた光が走り、気づけば僕は空を舞っていた。受け身をとる余裕なんてない。バンッと地面に叩きつけられる。痺れるような痛みが全身を支配して起き上がれなかった。
直後、近くで膨れ上がる魔力。
「荒ぶる風たちよ…」
ティナのトルネドが敵を巻き込んでいた。僕を攻撃したイミテーションは消えたけれど、それでもまだ周りにはイミテーションの気配がある。
とん、と軽やかにつま先を地面に着けたティナは、とてもきれいな瞳をしていた。いつもの少し悲しそうな穏やかな色とは違う、光を宿したきれいな、瞳。
「今度は私が、守るから」
僕を抱き起してゆっくりと木の幹に寄り掛からせる優しい手。
「すぐ、戻るから」
微笑むとすぐに立ち上がって走り出す。
ティナ、待って、どこ行くの。
「うそだ………」
見えなくなった後姿の先で、魔力がぶつかる気配だけを感じる。そしてまた、次のイミテーションの気配の方へ。
僕はなんで、ここにいるんだろう。

「……そこにいるのは、オニオンか?」

地面を這うように視線を向ければ、予想通りに黒い靴があった。すっとしゃがんで僕に視線を合わせてくれるスコール。僕はよっぽどひどい姿らしくて、眉を寄せて難しい顔をしている。
「これは……。悪いが、ポーションを切らしている。聖域に戻るぞ。ティナは」
低い声はいつもより早い口調で、理解するのにちょっと時間がかかった。頭がうまく動かないんだ。ティナ。ティナ。
「ティナ、行っちゃった。僕を置いて」
口にしたら情けなくて泣けてきた。ティナは戦ってるのに、僕だけこんなところにいる。ティナを一人ぼっちで戦わせている。
「置いて、行かれた……?」
小さく落とされた言葉に歪む視界でスコールを見つめる。そこにいるのが誰だかわからなくて、乱暴に腕で目をぬぐった。

僕の知っているスコールは、いつも凛と前を向いて剣を構えていた。こんな、まるで僕よりももっと小さい子どものようなスコールは知らない。
この人は誰だろう。迷子になった子どもみたいな目をしている、この人は。
僕が守るから大丈夫だよって言いたくて、真っ赤になった右腕を無理やり伸ばしたけれど、不意にぐるりと目が回る。
大丈夫だよ、泣かなくても大丈夫。僕がいるから、大丈夫だよ。
おかしいな、声がでない。指先は彼の服を掴むことすらできず空に向かってだらりと伸びているだけ。情けないその手に黒いグローブに包まれた手が伸ばされてぎゅ、と掴むとこまで見えた。
彼が泣いていないか、そればかりが気になったのだけれど、僕の意識は勝手にブラックアウトした。










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