14.眠れる獣


さて、無知であることは果たして清らかであり善きことであるだろうか。

木陰の気持ちよさに寝そべり目を閉じていたところに通りかかったスコール。イミテーションの気配はないとはいえ、彼の目には無防備に見えたのだろう。名前を呼びかけてくる。
その優しさが嬉しい。別にスコールは僕の感情に気づいてもいないし、声をかけたのだって彼生来の優しさからくるものだと知っている。それでも嬉しくて、応えなければどうするか気になって寝たふりをしてみた。
すると何を思ったのやら、近づいてきたかと思うと鎧をなぞったりノックしてみたり、あげくに髪をく、と引っ張ってくる。博士じゃないけどまるで仔猫だね。
面白くて寝たふりを続行しようとしたけれど、腹部に負荷がかかって思わず呻いた。
「あんた、起きてるだろ」
「……スコール」
明るさにチカチカする視界が世界になじめば、至近距離にスコールの顔。僕の顔の横についた手で上体を支え、腰を僕の腹部に落としていた。
何をしているんだろうね、この子は。
こんなに近づかれたら触れたくなるだろう。垂れてくるブラウンの髪を耳に流して頭を優しく撫でてみせれば、子ども扱いするなとばかりに睨んでくるのだけれど。
「スコールはもう少しお勉強した方がいいね」
「……何のことだ」
「天秤に乗せた理性と欲望の均衡について、かな?」
首を傾げたせいで露わになった肩口がおいしそうで、気づけばまるで動物みたいに噛みついていた。
まるでわからないという顔して動けないスコールが可愛くて、ぺろりと自分の歯型のついた肌を舐めてみたけれど、ひっと声が聞こえるだけ。
楽しくて弾む声でお勉強しようか、と彼の耳に吹き込んだ。










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