15.やさしくなる方法


せーのっ。
「「スッコォォルっ!」」
「っ!?」
背中と腰にかかった負荷に、スコールの膝ががくんと揺れた。
倒れなかったのは、飛びついた俺とバッツがちゃんと足をついて踏ん張ったからだ。じゃれてたら怪我しちゃいました、なんてことになったらWOLに説教されそうだもんな。
「……何をする」
バッツはスコールの背中に飛びかかってて、俺はスコールの腰にひっついている。
なんて正直に現状を告げるわけない。視線を交わし頷きあったのを合図に、にやっと笑って腕の力を強くした。
「はぐはぐ?」
「そうそう、はぐはぐ」
ぎゅーって頬も押し付けてみる。女の子じゃないから腹筋の固さで気持ちいいとはいえないけど、俺のしっぽはゆらゆら揺れた。
「………」
「いだだだだっ」
「ちょ、スコールそこは痛いって!」
無言のまま強い力で引きはがされた。実際の痛みより大げさに痛がってみせれば、眉間に皺が刻まれる。
不機嫌っていうより困った顔だけど、後ろにいるバッツにその表情は見えない。
「ちぇー。もうおしまいか」
そう言ってバッツはもうしませんの印とばかりに頭の後ろで手を組んだ。

スコールにじゃれる時に大事なのはタイミングよりも引き際だ。もうちょっとひっついてても平気かなって時と、お触り厳禁な時がある。俺は大体読めるけど、バッツは5割の確率で逆をしでかすのが流石だと思う。
で、今日は逆だった。少なくとも俺のカンジでは、もっかい飛びついても溜息だけでしばらくはぐはぐさせてくれたハズだ。
外したな、バッツ。

「ま、いっか。今日どこ行く?」
にって笑うバッツは、聞いたくせにもう勝手に歩き出していた。いつものことではある。
だから見逃すんだよなーと俺はゆっくり後に続きながら、隣の羨ましいくらいの長身を仰ぎ見た。
眉間にはきっちり皺を刻んだままで、理由を聞けない額の傷が痛そうだ。痛みはもうないなんて言うけどさ、見てるこっちが痛いんだって。
「腕」
「ん?」
「腕、痛かったか」
先を歩く背中に視線を固定したままで小さく問われた。ぶっきらぼうな口調で。
もうちょい愛想良くできれば色々楽できるんろうにな、勿体ない。俺らは無愛想でスキンシップが苦手なスコールだから構いたいから、別にいいけど。
「そんなヤワじゃないさ。俺もバッツも」
「……そうか」
ほっと息をつく。じっと眉間の皺が消えるのを見守ってたら気づかれて小首を傾げられた。
どーすっかなって思ったけど、口に出すのは止めにして、腰に抱きつく。若干の歩きづらさは愛でカバーだ。野郎に振りまく愛はないけど、仲間の範囲内で相手がスコールなら結構カバーできると思う。
歩きづらいのは同じだろうに、俺の予想通り、スコールは溜息ついただけでもう邪険にはしなかった。
まっすぐ前を見るその目は、変わらずに風でたなびく空色のマントを追っているんだろう。
無口なスコール。目は口ほどに物を言うって知ってるかな。
俺がはぐする時とバッツがはぐする時じゃ自分の表情全然違うの、わかってないだろ。黙ってはぐはぐされてればいいのに、振り払う理由は俺には理解できそうにない。それでいてすぐに後悔してバッツのこと目で追うんだ。俺が見てるのに気づかないくらい、必死に。

まぁ、スコールは早いとこバッツが肩組んだり腰に腕回してきたりするのが自分限定だって気づいたほうがいいな。スコールにも他の誰にも、教えてやる気はないけれど。
理由は単純で二人とも気づかなきゃ意味ないっていうのが半分、このまま3人ではぐしてるのが心地良いっていうのが半分。それでもって、今は3分の1、不足している。満たされたくてスコールの視線に俺の視線もプラスした。
ようやく気付いたバッツが振り向いてスコールに飛びつくまで、さん、にぃ、いち。










inserted by FC2 system