愛しの黒猫


真っ直ぐに伸びた背筋。少し引かれた顎のシャープなライン。首筋にかかる艶やかな黒髪。宝石を砕いて溶かし込んだような瞳。白い頬。落ち着いた、けれど堂々とした声。
その全てが僕を惹きつけて、一目見た瞬間に恋に落ちた。

「キモイ」

触れた指は細く長く、少しだけ荒れていたけれど綺麗だった。体温は少し低め。腰も足も全部男にしては細い上に、運動神経が切れているらしく走ればすぐに呼吸が上がる。
でも代わりに頭は切れる。
ノートを取らなくても授業なんて理解できているらしくて、授業中は大抵居眠り。少し伏し目がちな目に長い睫がかかっているのを見るのが楽しい。

「ストーカー予備軍」

「失礼だな、カレンさん。ちゃんと許可もらって家にお邪魔させてもらったよ?」
「家までいったの!?」
「行動派なもので」

それにしても欲しいと思った瞬間告白しておいて良かった。
先手をとったことで意外と後に続く男はいなかったし、女子も目の保養的な扱いで行動に移す子はほとんどいなかった。
押しに弱そうだし、一番近いポジションは確立できた。

「家に行っただけよね?何もしてないわよね!?」
「あははカレンさん、何想像してるの?女の子なんだから恥じらいなよ」
「うっさい!アンタの言動が一々不穏なのよ!!」
「ご家族にご紹介いただきましたー」
「警戒されればいい。全力で警戒されて二度と敷居を跨がせてもらえなくなればいい」

うん、まぁ、警戒はされたかな。
元々ルルーシュって、生い立ち複雑で警戒心強いし。そのルルーシュの警戒が緩んだと思ったら、妹とメイドの警戒心を煽っちゃったみたいだし。
というか、ナナリーも咲世子さんもルルーシュ大事にしすぎて完全に娘に近づく男は排除するっていうお父さん状態だったな。
あまり間違ってはいないんだけど。

「ルルーシュってちゃんと男の子らしいとこあるんだけど、華奢で抜けてるところがあるせいか庇護欲そそるわよね」
「僕のだよ」
「少なくともアンタのものでないことだけは確かね」

警戒されてもハードル高いほど燃える方だから問題ない。
それに、親猫から離された仔猫が自分より小さい仔猫を守って毛を逆立ててるみたいな、ルルーシュとナナリーの関係はとても可愛い。
もう妹猫は自立し始めてるのにいつまでも自分の庇護が必要だって精一杯頑張ってる兄猫の、必死に爪を立てる姿なんて、そこから引きはがして撫でまわしたいくらいの可愛さだ。
猫はいい。気まぐれで柔らかくてちょっとツンとしている姿は愛でずにはいられない。
なんでか逃げられたり引っかかれたりするんだけど。

「好きな玩具遊び過ぎて壊すタイプだからでしょ」
「僕物持ちは良い方なんだけど」
「じゃあその執着心に野生のカンが警鐘鳴らしてるんでしょうね」

野生のカンか。ルルーシュなさそうだな。僕はそういうカン、働く方だけど。
今もなんとなく、屋上から広々とした校庭を眺めればちょうどルルーシュが通りかかった。
見つけたからには追いかけなければ。

「あ、ちょっと!」
「じゃぁまたね、カレンさん。レジスタンス活動ばっかりして休んでると、留年しちゃうから気を付けて」
「余計なお世話!ルルーシュに手出すんじゃないわよ!!」

フェンスに手をかけてそのまま空へ。風を切って自由落下を楽しみたいのに水を差された。
残念だけど、すぐそこに驚いて目を見開く可愛い黒猫がいるから、僕の機嫌はすぐに上昇する。
周りの生徒は僕が降ってきたことになんて全然気づかなかったのに、彼だけが僕に駆け寄ってくる。

「スザク!何やってるんだ!」

絶対に手に入れる。愛しの黒猫。










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