「……知ってるわ、それくらい」

毛先の跳ねた深紅の髪の少女は見下したようにそう言った。
それがどうしたの?と蔑むように。

「ふっ。その程度のことで勝ち誇るなど、笑止千万ですね」

金の前髪を一筋垂らした男は可笑しそうにそう言った。
それでお仕舞いですか?と探るように。

「え、いや、あの」

艶やかな黒髪を少し伸ばしている少年は零れ落ちそうなほど瞳を見開きそれだけ言った。
意味がわからない、と現実を否定するように。

黒髪を後ろに流して結んだ武人は無言で室内の五人を観察している。
透けるような緩やかに波打つ金髪を持つ美女は楽しそうに煙を吐き出している。



灰色の髪の間から眼鏡を光らせる男は、腕の中の黒髪をゆっくりと抱きしめた。
床に落ちているのは、この世で一番有名な、仮面。
もう一度、見せ付けるかのように男は言った。

「ゼロもルルーシュも、僕の主だよ」

BATTLE



かくして、戦いのコングは鳴り響く。

「ちょっと!気安くゼロ、ルルーシュに触らないでくれる!?」
「なんで僕が僕の主に触れるのに、君の許可をもらわなきゃいけないわけぇ?」
「ゼロ、それともルルーシュとお呼びしたほうが良いですか?どちらにせよ、嫌ならば嫌だとおっしゃった方がよろしいですよ」

「ここは騎士団内だ。ゼロと呼ぶほうが適切だろう」

「ゼロ!こういう手合いはやりすぎるぐらいでも足らないぐらいなんですから、思いっきり言っていいんですからね!?言いづらいなら私が言い聞かせますから!」

「拳でか」
「アンタ、意外といいつっこみ持ってるんだねェ」
「・・・つっこみ?」
「なんでもないよ。天然か」

言葉少なに的確な発言を漏らす藤堂にラクシャータが彼女なりの賛辞を贈るが、見込み違いのよう。それでもラクシャータは楽しそうに隣の男と目の前で繰り広げられる見世物を流し目で見る。
壁際の観客を気にしない喜劇は論点などさしてないままどこまでも。

「あーのーねー。嫌なわけないでしょぉ?」
「ふんっ。ゼロは懐に一端入れちゃうととことん優しいんだから、そんなのわからないわよ」
「カレンの言うとおりです。ゼロには身内と認めた人間への配慮をしすぎるという点があるのは事実です」
「僕の主の欠点でもあり美徳だねぇ」
「アルジアルジうるさいのよ!私の主だってゼロだ!!」
「ニホンの忠犬みたいに吠えないでよねぇ。耳がキンキンするよ。あ、アレだ。シバイヌ。そっくりじゃない?ねぇ僕の王様」

「・・・」

腕の中に閉じ込めた主を覗き込むロイドに、反応は返されない。

「ますたぁ?」
「ゼロ?大丈夫ですか?」
「貴様がゼロにひっついているから悪い病気が移ったのかもしれん。早く離れて下さい」

ひらひら、とロイドがルルーシュの目の前で手を振って見せても、反応は一向に返ってこない。

「はい、没収ー」

状況打破したのは、ラクシャータ。
予想外な程あっさりと、ルルーシュはラクシャータの腕の中へ。
ふわり、と黒いマントが広がった。
テロリストの首領かはたまた救世主か。声高に秘めやかに取り沙汰されるゼロの、マントが。

「がっつくんじゃないよ」

ふぅ、と吐き出される紫煙。

「ここは公平に行こうじゃないか。」

にぃっ、と上げられる口角。

「第一回、ゼロいこぉるルルーシュは誰の主だ!?争奪戦〜!!」



…ちょっと待てなんで誰も俺が仮面を取った姿を見て誰も驚かないんだいやそれよりなんでロイドがあぁスパイ活動をすると言ってきたんだ本気なのか本気だろうな確かにそれは助かるがシュナイゼルに近しすぎるでもロイドはあの白兜の技師だしそういえばスザクの上司もあるのかなんでスザクはこんなやつの部下なんだ不憫で仕方ないロイドに言ってなんとか部署を変えさせられないだろうか大体さっきからなんで争奪戦。

争 奪 戦。

「はぁぁぁぁ!?」

「待っていて下さいね、ゼロ!絶対に私が勝ってみせます!」
「待っていて下さい、ゼロ。確実にこの不届き者の息の根を止めてご覧にいれましょう」
「待ってて下さいねぇマスター。こんな新参者なんかにやられたりしませんからぁ」

「準備はいいね?」

「―――ちょっと待ったぁぁ!!」

パスコードが必要なはずの黒の騎士団内のゼロの部屋。それ以前に、部屋の外には騎士団員が大勢控えているはずだ。それをかいくぐって現れたのは。

「スザク!?」

「待たせてごめんね、ルルーシュ。あ、今はゼロって呼んだ方がいい?とにかく、僕はカレンさんにもそこのアゴにもロイドさんにも負けないから!」

「いやなんでここにというかどうやって…」
「いい度胸ね枢木スザク。白兜を直接倒せないのは残念だけど、今ここで、デヴァイザー本人を倒してやるわ!」
「僕に勝つ気?まだあの赤いのに乗ってた方が勝機はあると思うけど」
「枢木スザクか。ここの警備をかいくぐるとは…流石、こちらを散々梃子摺らせてくれただけはあるな」
「ごめんね、ルルーシュ」
「嫌味だってわかった上で笑顔で誤魔化すな!これだから腹の中真っ黒なヤツは嫌なんだっ」
「ロイドさんよりはマシだと思うよ?急にいなくなったと思ったらゼロの元へ走るなんて…ズルいですよ」
「君はお邪魔虫なんだよぉ。言っておくけど、一番最初に契約したのは僕だからねぇ?」
「順番なんて関係ありませんよ」
「そうだ!お前に言われたくはないけどな」
「カレンさん、学校にいる時まではいかなくていいけど、もう少し大人しくした方がいいんじゃない?大和撫子が泣くよ」
「余計なお世話だ!」



「あ〜もう。ぴーぴーぴーぴー煩いねぇ。いいから始めるよ」

「第一ラウンド、体力勝負〜」

やる気がないのか面白がっているだけなのか、気の抜けた声でラクシャータはそう宣言した。



「………って、させるかぁっ!!」

司会者とは正反対にやる気をみなぎらせた選手に待ったをかけたのは、景品であるルルーシュ。

「ラクシャータ、退屈だからって悪ノリをするな!藤堂さんも傍観していないで止めて下さい!」

キッと大人2人を睨みつけて釘を刺すと、その勢いのまま争奪戦参加者に怒りをぶつける。

「ロイド!無駄に怪しまれる前にきちんと軍の職務をこなしてこい!スザク、お前もだ!派手に動いてこの場所が割り出されたらどうするつもりだ!?カレンも体力が余っているならその辺でスザクに伸された団員を鍛えなおせ!!ディートハルト!お前はスザクが突破したここのプロテクトを練り直すんだ!」

そこまで一息に言い切るとぜーはーと肩で息をし、再び顔を上げると呼吸を整え一言放つ。

「わかったな!?」

勢いに押されこくこくと頷く面々を見てルルーシュはばさりとマントを翻した。

「ますたぁどこ行くんですかぁ?」
「帰る!着いてきたら口きかないからな!!」
「それは困りますぅ。了ぉ解〜」

あははとおどけてロイドはそう笑った。
口をきかないなんてなんて可愛らしい。

シュンっと音を立てて閉まるドア。
一気に静まり返る室内。

「…さて、オヒメサマがご立腹だし、ご機嫌伺いのためにも働きますかぁ」

ラクシャータの言葉にその場にいた全員が緩慢な動作で動き出す。

「スザク、どれくらいでこの部屋までたどり着いた?」
「時間は計り忘れましたけど、僕の全力を持って駆け抜けましたよ。あ、いろんな人にぶつかっちゃったんですけど、まさかゼロを守る人たちがぶつかったくらいで意識不明になんてなりませんよね?」
「そんなたるんでいるヤツがいたら、これから鍛えなければならないな」
「そうですね、藤堂さん。私も一緒に鍛えるので、よろしくお願いします」
「頑張ってくださいね」
「じゃ、僕は帰るから〜。マスターがいないのにこんなとこ、いる意味ないしねぇ」
「僕も戻ります。ロイドさん、セシルさんにはちゃんと言っておいたから安心して下さいね」
「うーわぁいつの間に君そんないい性格晒すようになったの?絶対マスターの側に置きたくないなぁ」
「ロイドさんに許可をもらう必要なんて感じてませんよ、僕。もちろんカレンさんにももらおうなんて思ってないから」
「スザク、学校でもルルーシュに近づけさせないから覚えておいて」
「ごめんねカレンさん、学校でも僕の方がカレンさんより上手だと思うよ」

ばちばちっと火花を散らす少年少女。大人は面白そうに観察しながら仕事に手をつけ出す。
お若い者同士ごゆっくり、と一般的とはほど遠い意味合いで学生達の口喧嘩をBGMに。

「…おや?プリン伯爵はもう帰ったのかい?」
「え?」
「いつの間に?」
「…調べましょう」

どこからか取り出したパソコンを操作するディートハルト。画面には取り付けられた監視カメラの映像が流れている。

「記録が、ありませんね」

私の組んだ監視カメラの包囲網を突破するとは、と悔しげに眉を歪める。

「まさかルルーシュを追っていったってことはないと思うけど…僕も早く帰ります」

ロイドの行動をうかつに予測することはできない。スザクはそう判断すると藤堂に一礼して素早く部屋を出て行った。
ディートハルトは早くもそのスザクの行動をトレースして新たなプロテクトを作り上げようとしている。

「私達も行きましょうか、藤堂さん」
「そうだな」

そしてようやく、騎士団内は嵐から解放された。






「………で、なんでお前がここにいるんだ?」

ようやく一息つけるとたどり着いた自室。そこにいたのは、緑の髪の少女ではなく、灰色の髪をした男。

「お帰りなさいませぇ、ますたぁ。着いてくるなって言われたので、待ってみましたぁ」
「…減らず口」
「ありがとうございますぅ」
「褒めてない」
「ちゃんとわかってますよぉ。…マスターが素直じゃないことくらい」

くすり、とロイドは小さく笑む。

「ディナーはいかがですか?」

腰掛けたベッドの上、白い布を取り去れば、そこには小さなお盆に載せられた軽食。
まるで魔法のように。

「どこまで準備しているんだ?お前は」
「準備なんてしてませんよぉ。僕は魔法使いですからぁ」

笑顔で魔法使いは杖を振る。

「お望みならワインも用意しますよぉ」

はいっと出してみせるボトルとグラス。

「乾杯しましょぉ?」
「一応、俺は未成年だが?」
「ゼロは年齢不詳でしょぉ?」
「…何に杯を掲げようか?」

「そぉですねぇ。ブリタニア崩壊のカウントダウンに、なんてどうですかぁ?」

チェス盤の上に増えた駒。戻ってきた魔法使い。
狙うのは、白のキング。

「乾杯」










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