銀の悪魔


巨大な白い騎士を従えて、銀の悪魔はくくくっと笑った。
「黒い学生服を着た、黒い髪に紫の瞳で、枢木スザクと同じ程度の身長・年齢の、オトコ」
先程面会してきたパーツの、探しモノ。
「楽しいなぁ」
僕に確認を頼むほど、大切で大切で仕方ないんだね。
にやにやと底の知れない笑みを浮かべるロイドに、彼の副官とも呼べるセシルは不思議そうに上機嫌の理由を尋ねた。
ランスロットのパイロットは拘束中で助かる見込みはないのに、それでも機嫌が良い理由を。
「君は知ってるかな?黒の皇子」
跳ねる語尾を聞くものはセシルとランスロットのみ。閑散とした部屋というには広すぎる空間には響き渡らずに彼らの周りでのみ踊る。
「マリアンヌ妃のご子息ですよね。確か日本に特使として渡って、戦渦に巻き込まれて亡くなったと」
「そのとおーりっ。だけどねぇ、死体、出てないんだよなぁ。だから、正確には生死不明で廃嫡」
黒の皇子。
母をテロリストと思しき輩に殺され、妹も後遺症を負った悲劇の皇子。
人質としての価値すらないのに嘘で固められて日本へ渡った捨て駒の皇子。
チェスが得意で兄をいつも負かしていたという処世術の下手な皇子。
黒い髪と紫の瞳を持つ美しき黒の皇子。
「知ってた?黒の皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、日本最後の首相・枢木ゲンブの庇護下に置かれていたんだよ」

「あぁ、そう言えば、彼の苗字も枢木だったね」

くくくっとまた楽しそうな顔。
セシルもつられてクスリと笑う。
「まぁ、ではスザクくんは黒の皇子とお友達だったかもしれませんね。歳も確か近いのでしょう?」
「そうだねぇ。生きていれば、枢木一等兵と同い年だ」

まだまだコドモだね、と大人たちは笑う。
大切なものは誰にも盗られないように気をつけて隠さなくちゃいけないんだよ。
「見てみたいなぁ」
「なにをですか?」
答えを知っていても尋ねるのは言葉遊び。
「真っ白なランスロットの前に立つ姿、きっとよく映えるよ」

考えれば簡単にわかることなんだよ、とロイドは笑う。
大切な僕のランスロットに乗せる人物、調べないわけがないだろう?
名誉ブリタニア人とはいえイレブンが、ブリタニア人の学生と知り合う機会なんてあるわけがない。交友範囲は特定される。
もう一つ、君と彼が知らないことは、いかに彼が記憶に鮮明に残る人物かということ。
一度見たら忘れられないでしょ。
あの時彼は小さな小さな王様だった。幼いながら、人の上に立つ品格を持っていた。
チェスで惨敗したクロヴィスより、ずっと。

「楽しみだなぁ」
真っ白なランスロットの前に立つ、彼の姿。
「はやく見たいですね」
でしょう?とロイドは得意気に笑う。
「でもそのためには、スザクくんに戻って来てもらわないと」
「心配御無用。だって枢木一等兵があれだけ大事にしてるんだから、彼だって同じだけ思ってるでしょ」
思いついたようにセシルは手を叩く。
「皇子様が捕らわれの騎士を助けに来るんですね!」
「あれぇそんな昔話だっけ」

大人たちは笑い合って明日を待つ。
盤上ではもう決着はついている。何を焦る必要がある?
盤外でのゲームの結果は知らないけれど、パーツはあるべき場所へ戻ってくるんだ。それだけで十分。

「期待してるよ皇子様」

僕は別にどっちでもいいんだけどね。
ランスロットを従えても、ランスロットに追い詰められても。










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