緋色の魔女


ピンク色の髪をたなびかせ、開いた窓から下を眺める女とも少女ともつかないが女性が一人。
楽しげに口ずさむのは古い恋の歌。
カーテンレールから取り外した布を繋いで、誰かを待ち望む姿はまるでラプンツェル。
父が犯した罪は何?
「みつけた」
呟く彼女の瞳に映るのは、咎人の姿。
第3皇子クロヴィス殿下殺害容疑をかけられていた、名誉ブリタニア人。
「くるるぎ、すざく」
目掛けて、カーテンを利用して、飛び降りる。

さぁ仲良くなりましょう?
とびっきり可愛いオンナノコを演じてさしあげます。



皇族として、ユフィが学んだことの一つが演技。
いかにも自然に当然のように。
猫とだって話して、彼の話も聞いて、わがままを言ってみせて。
大切なのは、こちらのペースに引き込むこと。

最後に身分をあかして、逆らえないように。
それでも甘えてみせて、自覚させるように。

自分が第3皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアのお気に入りだと。

地位も権力も性別さえも、手持ちのものは全て使って、手に入れたいものがユーフェミアにはある。
手段は問わない。
学園に名誉ブリタニア人を転入させた。
特派を戦闘に参加させた。
それも全て、たった一人を手に入れるため。



「スザク、学校は楽しいですか?」
「うん。とっても楽しいよ。ありがとう、ユフィ」
「良かった。スザクが名誉ブリタニア人だからと嫌われていないか心配だったのですが」
「最初はね、でも、友達だと言ってくれた人がいたから」
「優しい方なのですね」
「うん。でも最近は学校を休みがちだから心配なんだ」
そう。
休みの日程をよく考えれば、きっと理由がわかるでしょうに。
そんな迂闊なところがまた可愛いのですけれど。
だって顔を隠して声を変えているだけで、私を騙せたと思っているのですから。
あぁなんて可愛い人。
「スザク、私もアッシュフォード学園に行ってみたいですわ」
「…え?」
「いけませんか?河口湖で人質になっていた方々は、スザクの入っている生徒会の方たちなのでしょう?彼女たちが無事だということはわかっていますが、もう一度、ちゃんとお会いしたいですし」
こちらには理由が十二分にある。
ユーフェミアはそれをわかっているし、スザクもお願いが命令になることを知っている。
「でも、護衛とか」
「スザクがいるでしょう?学園を見ることがいけないのなら、生徒会の方々と会ってお話するだけでいいのです」
「…わかり、ました」
「ありがとう。楽しみにしていますね」
どのお洋服を着ていきましょうか?
可愛らしく、ピンク色?
あぁなんて楽しみなんでしょう。
ようやく会える。愛しい人。



生徒会室の扉を開ければ、見知った顔の女の子たち。
ユーフェミニアはにこやかに挨拶をして、スザクの様子を尋ねて、お忍びできた皇女の顔。
スザクの顔は厳しい。それは騎士の顔ではなく友人を心配する男の顔。
ミレイの顔は険しい。それは守ってきた皇子を心配する臣下の顔。

スザクはルルーシュと連絡が取れなかった。
ミレイはスザクから連絡をもらわなかった。

遅れてきたルルーシュが、扉を開いて見たものは。

「お久しぶりです、お兄様。ご無事で何よりです」
桜色のスカートをふわりと広がらせ、お辞儀をしてみせる義妹の姿。
愛らしい笑顔はまるであの時と変わらずに、ここがどこかわからなくなる。
あぁでも違う。あの頃よりも純粋な。
「ユフィと、呼んで下さらないのですか?お兄様」

ユフィと一緒に参りましょう。
魔女はそう、微笑んだ。










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