助けは要らないと言われても、手を出してしまうのは僕の自己満足だから


「友達だ」
周りを囲む学生服の群れに向かって宣言した彼に、不安よりも喜びが勝ったと言ったら、昨夜の言葉とまるで正反対だと君は僕を笑うだろうか。

だって本当に嬉しかったんだ。
関係を、否定されなかったことが。
僕が望んだことだけど、否定されたかったわけじゃなくてただ隠していたいだけだったんだと思い知る。

ルルーシュは僕を友達だと宣言した。
彼のことだ。生徒会メンバーというだけでなく、人望厚いことだろう。猫を捕まえたご褒美のキスの相手、集計を取ったら男女共にルルーシュ・ランベルージが1位だなんてことは計算するまでもないほど。
その彼が宣言したのだ。僕を友人だと。
体育着の赤い落書きは痛くも痒くもなく、ただ洗濯が面倒なだけだったけれど、きっともう二度とそんなことは起らないだろう。
多分痛かったのは、僕よりもむしろ。

助けなんて要らないし君が笑っていられる世界がそこにあればそれだけで十分なんだけど、その世界に僕が入ることを許してもらえるなんて、どうすればいいかわからない。
だって嬉しいなんて言葉じゃ足らないんだ。
軍には行かなければいけないけれど、クラスでも生徒会でも、好きなだけ君に話しかけられる理由を僕はもらった。

「スザク?」
前を歩くルルーシュは黙ってばかりの僕が付いてきているのか確認するように、僅かに首を捻って視線を合わせてくる。
「さっきはありがとう。嬉しかった」
少し片思いが報われたのか、大人しく腕の中に居る猫を抱きながら、報われなくてもいいと思いながら報われたくて仕方ない思い人に笑顔を向ける。
すると彼は照れたのか、素早く顔を前へと戻してしまった。
残念。きっと目元が染まって綺麗だったろうに。
「別に、本当のことを言ったまでだ」
「うん。そうだね」
でもありがとう。
でも本当はもっと近い関係になりたいんだ。
なんて言ったら君はきっとこれ以上近くはないなんて真顔で言うんだろうな。

君の一番近くにいるのはナナリーとスザクなんだって自惚れじゃなくわかってる。
でも名前を変えたいんだ。
君が好きだけどもう7年前の好きとは意味が違うんだよ。
絶対に気づいてもらえないだろうけど。

だから少しずつわからせていく。
報われなくてもいいけど誰かに盗られるのは嫌なんだ。
だからどんな遊びみたいな景品でも君が関わるなら猫だって本気で捕まえる。

「ねぇルル。君の大切なモノは取り戻せたのかな?」
何かはわからないけど、猫が君の何か大切なモノを取っていったのは確か。否定しなかったし何よりナナリーが言ったのだ。だからこれは本当。
「あぁ、おかげさまで」
ほら、答えをくれた。
ならば。
「僕はルルにご褒美を請求する権利はあるのかな?」

「は?」

「だって、僕が猫を捕まえたから、ルルは会長に猫に盗られた物、見つからなくてすんだんでしょ?」
「だから、褒美はナナリーが」
「うん。でも僕は、ルルからも欲しいな」
ダメ?
7年前の笑顔を付けて、それがさも当然であるかのように。

歩みを止めた細く長い足。
黒は身体の線を引き締めてみせる、と聞いたことがあるけれど、ならば素足はどれ程細いのだろうか。
折れちゃいそうだな。
くるりとその足が回り、僕の方を向く。
視線を上げれば、思案する彼の顔。
華奢な指が彼の顔を隠しているのを、剥ぎ取りたい。

ほぅ

廊下は彼の息を吐く音が聴こえる程静か。先ほどまでの喧騒が夢のよう。
一歩、彼が近づいてくる。
もう一歩。
ナナリーがキスしたのは右頬だった。

爪の形が綺麗。
顎にかかる指は冷たく、冷え性はまだ治っていないんだと認識させた。
長い睫に縁どられた紫水晶が近い。
数度、瞬きした後閉じられ、左頬に柔らかな温もり。

「ありがとう」
ちゅ、とわざと軽く音を立てて目の前の額に口付けた。
君は何か言いたそうに口を何度も開閉させていたけど、僕が「何?」と笑顔で言ったら何でもないと頬を染めながら歩みを進めた。
上がるのは口角。
嫌がらなかった、けれど少し意識はした、かな。
君は僕が好き。どの程度かはわからないけど、それは確か。なら少し、助けという名を借りた罠を仕掛けようか。
僕の気持ち、君の気持ち、はやく気づいてもらえるように。



僕は「おとなしくなった」でしょう?
7年前と同じ僕なら、絶対に君を抱きしめてもう二度と離さない。










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