極上の愛を召し上がれ



「はい、あ――んっ」

そんじょそこらじゃお目にかかれない、道を歩いたら10人中9人は振り返る美貌の持ち主が、これまた滅多にお目にかかれない満面の笑みで目の前にいる。
眼福。ってきっとこんな状態のことだろうな。
はい、とってもうれしいです。久々に見ました、こんな笑顔。
しかも新婚さんかばかっぷるかというような台詞つきです。

「どうした?ほら、あーん」

アッシュフォード学園の食堂外のテラスは日当たり良好。
草花は太陽の光を跳ね返してきらきらと輝いている。
そんな風景に負けずに輝く黒髪。
ちょっとお行儀悪く左手は頬杖ついて、お箸を持った右手は器用に食べ物をつかんだまま僕に向けられている。
なかなか口を開けない僕に焦れて小首を傾げる様が可愛くて仕方ない。

ん だ け ど !!

「えーっと、ルルーシュ。それは何かな?」

銀米、という言い方がある。
その言葉を体言したかのようなお米が、ルルーシュのお箸の中にあった。
が、それだけではない。
もちろん学園では絶対にお目にかかれないであろうお米があるのは驚きだ。
付け加えてさらに、そのご飯の上に乗っているのは。

「お前の目は節穴か?」
「…僕の目には納豆ご飯に見えるよ」
「そうだな。納豆ご飯だ」

えーっと?
ここはブリタニア人が通うアッシュフォード学園であって、当然食堂で勤務するシェフが納豆ご飯なんてTHEイレブン食を知っているわけもメニューに出すはずもなく、ということはこれはわざわざルルーシュがお米から納豆まで用意して持ち込んだということですか?

「ほら、はやくしないと落ちるだろ」
「あ、うん」
「はい、あーん」
「あー…ん」

つい、と向けられた箸に、身を乗り出してぱくりと食いつく。
きゃーっとか言う声はきっとシャーリーだろう。うん。なんか、ごめん。
音源にちらりと視線だけ向ければ、近くの花壇から顔を出してこちらを見ている生徒会メンバーがいた。

「うまいか?」
「うん。久々だったし、美味しいよ。どうしたの?これ」

美味しかったのは本当。
お米はやわらかすぎず、納豆も辛すぎることはない。
何より本当に久々で、あ、納豆ご飯ってこういう味だったな、という感慨深ささえある。

「誕生日プレゼント」
「………え?」
「はい、もう一口。あーん」
「あぁ、あ、ん…………今日って7月10日だっけ?」
「そう。ほら、あーん」
「あー、ん」
「知り合いが納豆を食べててさ、そういえばスザクもよく食べてなって思って」
「それで、用意してくれたの?僕のために?」
「俺は納豆は食べないからな」
「それで、『はい、あーん?』」
「そう。あーん」

納豆食べてる知り合いってどういう知り合いだろう、なんて些細な疑問は浮かんだ瞬間に彼方に追いやられた。
だってルルーシュがとても楽しそうに箸を向けてくるから。
まるで餌付けされてるみたいだ。

「これでお仕舞い。はい、あーん」
「ん」

引く糸をくるくると絡めて箸が遠のいていく。
ご丁寧に用意されていたお茶を一口。

「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」

こんなやりとり、家族みたいで照れる。

「えっと、その、ルルーシュ」
「何だ?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

浮かべる笑みは極上。
あぁ、好きだなぁなんて馬鹿みたいに思った。
誕生日に納豆という思考は全然わからなかったけど、なんで『はい、あーん』なのか全然わからなかったけど、この笑顔が見れたからいいか、なんて思えてしまう。
そう、僕はわかってなかったんだ。
ルルーシュが人目につく場所で、こんなばかっぷるですと公言するような真似をするはずもなければ、誕生日に納豆なんて意味のわからない組み合わせで攻めてくるなんて。
何か理由がなければするはずないじゃないか!
そう気づくのはいつだってルルーシュが行動を起こしてから。

「じゃ、納豆食べたんだから今日はもう俺に近寄るなよ」
「―――はぁ!?」
「嫌いなんだよ、納豆の匂い。ネバつくのも嫌だし」
「さっきまで僕に食べさせてくれたじゃないか!」
「誕生日プレゼントだったからな」

そう言ってさっさと席を立つ。
え、何これ。もしかしてお茶碗とお箸と湯のみは自分で片付けろってこと?

「あ、生徒会にはちゃんと出ろよ?」
「は、え、ちょ!るるーしゅぅぅ!?」

立ち上がって手を伸ばしても届くわけなく、悪魔の尻尾を揺らして僕の大切な人は去っていった。
右斜め後方からは、あはははあっという会長の爆笑。

「ご愁傷様スザクくん。よかったわねーちょっとでも楽しい思いができて」
「…最初からこうなるってわかってたら、もっと堪能しました」










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