※ 高河ゆん『LOVELESS』のパロディ
ユフィ視点で基本的にスザクがユフィに惚気ていますが、偶にユフィがスザクに惚気ます。
スザ→←ルル:素直な美大生と素直になれない小学生。スザクが変態気味。
ネリユフィネリ:本気の恋と姉妹愛の一方通行両思い。お姉様が振り回されてます。
今回はネリユフィネリのみ。







1日だけの魔法



おはようございます、ユフィです。
お姉様がいる時の私の朝は、お姉様におはようのキスをするところから始まります。
天蓋付の大きなベッドに柔らかいシーツ。
隣で眠るお姉様の頬にキスをして、それから朝食の支度をします。
お姉様がいらっしゃる時は、なるべく私が料理を作るようにしています。その方が、お姉様が喜んで下さるから。

それなのに、今日の朝、目覚めた私の目に飛び込んできたものは。
柔らかな深紅の髪の間から見えるのは。

「…おみみ?」

…。

きゃぁぁぁぁっ!!
何ですかこのお耳!?可愛すぎます!!
しっぽ、尻尾もありますか!?
はうぅぅっぴくぴく動いてます!!

さ、触ってもいいでしょうか?

ゆっくりと、遠い記憶の中にしかなかったお姉様のお耳に手を伸ばす。
「ん」
指先に触れた毛並みはしっとりとしていて絹糸のよう。
夢の中、無意識に声を上げたお姉様にはごめんなさいと心の中で謝るだけで、指は何度も耳を往復する。
「んんっ」
夢なら醒めないで後少しだけ。
けれど緩やかにルビーのようなその瞳は開かれました。
「ユフィ?」
「おはようございます、お姉様」
少し残念だけれど、いつも通り、頬にキスを。
「おはよう、ユフィ」
同じようにキスを返してもらって、瞬きを一つ。
じぃぃ。
「どうした?」
小首を傾げる仕草に伴って傾けられる二つの耳。
やっぱり、夢でしょうか。でもちゃんとお姉様のキスで起きたはずです。
指を伸ばして、もう一度。
「!?」
過剰な反応。
「やっぱり、本当のお耳なんですね」
「な!?」
お姉様のびっくした顔、久々に見ました。
「お耳と尻尾、とっても綺麗です」
頭にそろりと這わす指。お耳も尻尾も警戒してますって雄弁に言っています。
「…夢か?」
「夢でも嬉しいです」
きっと私の頬は緩んでいたことでしょう。
それを見たお姉様は仕方ないなというように息を吐いて、ベッドを降ります。
「鏡を見てくる」
ぽんっと頭を撫でられた私ができたのは、後姿を見送ることだけ。
揺れる尻尾が扉の向こうに消えたのを見て、ようやく私も起き出します。
朝食は何にいたしましょう?



エプロンをつけて、朝食はシンプルにトーストとサラダ、それから目玉焼き。コーヒーを淹れて準備万端。
「完璧ですっ」
丁度良いタイミングで扉が開かれました。
「お姉様」
が、姿をみせたお姉様は疲れたお顔。
「お姉様?」
「いや、大丈夫だ」
どう見ても、大丈夫とは思えません。
「お耳と尻尾ですか?」
「あぁ。家にいる分には構わないんだが、今日は取引相手と会わなければならないからな」
仕事上、耳があるのは感情コントロールという点で不利になる、ということは知っていました。
それに、今までなかった耳が急に生えていたら、思わぬトラブルが発生するかもしれません。

そうですわ!

「お姉様、お耳が見えなければいいんですよね?」
「ん?あぁ。尻尾はなんとかなるからな」
「ユフィにおまかせ下さい」
お姉様は、朝食を召し上がっていて下さいね。

そう、とってもいい思い付きです。
いつもは下ろしている髪をアップにして、お耳を隠してしまえばいいんです。
私もお姉様の髪を結えますし、良いことだらけです。



「動かないで下さいね、お姉様」
「あ、あぁ」
指通りの良い髪を梳かして、結い上げていく。
お耳を隠せるように、上手に。
「できたっ」
手渡したミラーで、様々な角度からチェックするお姉様。
一通り確認し、満足そうにミラーは戻された。
「うむ。綺麗に隠せているな」
「はいっ」
「ありがとう」
時間も出勤時間にぴったり。
隠されたお耳と尻尾ではどうみてもいつも通りのお姉様。
ちょっと、残念です。
お仕事を休んで下さいとは夢でも言えませんけれど。>
これくらいのワガママなら、構いませんよね。
「あの、お姉様」
「どうした?」
「お帰りは、何時頃ですか?その、あまり遅いと、髪がくずれてしまうかもしれませんし」
私の考えなんて、きっとお見通しなんでしょう。
くすりとお姉様は柔らかい微笑み一つくれて、いってきますのキスを。
「面会が終わったら、すぐに帰ってくる」
ぴくんっと耳を立たせたまま、いってらっしゃいのキスを。
今日の夕食は何にしましょう?



「へぇそんなことがあるんだ」
「はい!ほんっとうに綺麗だったんですよ」
大学のお昼休み。今朝のことを話す相手はもちろんスザク。
「折角なんだから、写真にとっておいたら?」
「!そうですね!!」
たまにはいいことを言います。
お耳と尻尾のあるお姉様なんて、もう2度と見れないでしょうし。
素敵な記念になること間違いなしです。
「それにしても不思議だよね、落ちた耳が生えてくるなんて。病院、行かなくて平気なの?」
「体調は問題なさそうでしたし、もし2〜3日しても元に戻らなかったら考えます」
「心配じゃないんだ?」
「だって、夢みたいなんですもの」
そう、なんとなく、今日だけトクベツなんだって気がするのです。
「確かに、ね」
今日の授業は後1コマ。
夢のおしまいまで後何時間?



「お帰りなさい、お姉様」
玄関で出迎えて、おかえりなさいのキスをして。
「ただいま、ユフィ」
ただいまのキスをしてもらう。
朝、私が隠したお耳。ちゃんとあるか見たくて、正面から手を伸ばし、髪をほどく。
現れたのは、今朝みたものと寸分違わない、お耳。
「よかった」
安心した私に苦笑する、お耳。
「そんなにコレが気に入ったか?」
「はい。だって、お姉様の一部ですから」
ご飯を食べたら写真を撮りましょう?
そう言った私に、お姉様は笑顔でちょっと困ったように笑みをくれたけれど、お耳と尻尾はちゃんと教えてくれました。
喜んでくれてるって、わかっちゃいましたよ。

「お姉様。やっぱりお仕事の時にお耳と尻尾があるのは不利ですね」
でもユフィの前でだけは、本当の気持ちを見せて下さい。



次の朝目覚めたらやっぱりお耳と尻尾はなくなっていて、昨日撮った写真だけが夢ではなかったと保証してくれるだけでした。
「おはようございます、お姉様」
頬にキスをして、いつもと同じ一日のはじまり。

学校に行って報告しようと探したスザクが、珍しく帽子を被っている理由に私のお耳がピンと立つまで、あとちょっと。
その前に、昨日だけのトクベツな、魔法に感謝を。










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