弟について本気出して考えてみた


「おはよう!ルルーシュ」
「おはようスザク」

久しぶりの学校に着いたのは始業ギリギリ。もう少し早く来れれば、もっとルルーシュと話していられるのに。さっきまでランスロットの起動実験していたから、この時間になったのは仕方ないんだけど。
その代わり、今日は何事もなければずっと学校にいられる。もしかしたらルルーシュに夕食に誘ってもらえるかもしれないし、誘いがなくても自分からねだろうと決めてきた。
自然と声もはずむし、笑顔にだってなる。
自覚できるくらいの満面の笑みでルルーシュを見ていると、すぐに生徒会のみんなから声がかかた。

「スザクくんっおはよう!」
「おーっすスザク。何?今日はオシゴトなしー?」
「うん、今日はずっとこっちにいられるよ」
「ラッキー。書類溜まってたんだよね〜」
「も〜。リヴァルもちゃんとやるのよ!?」
「はいはいっ、と」
「全くっ。ルルも今日は生徒会、行くよね?」
「あぁ」
「−っと、先生来た」
「あ、じゃ、また!」
「また…って、どこにも行かないだろ」
「まぁまぁ。じゃ、ルル、僕も席戻るね」

そう声をかければ、返事の代わりにひらひらと手を振って返された。
呆れ顔。苦笑するみたいに口の端が上がってる。ルルーシュは割と良くこういう顔をするけど、その「仕方ないな」ってカンジの表情が結構好き。
昔は僕しかそんな顔、させられなかったのにね。
たった7年、されど7年。ルルーシュの周りに優しい人たちが増えたのは嬉しいけど、喜んでばかりもいられないのが現状。
だってルルーシュは超がつくくらい鈍感だ。僕の感情とか、周りから向けられる感情に疎すぎるし、なによりこの学校にはやたらと敵が多い。
思わず溜息が出てしまう。
あ、幸せが逃げた。



きゃぁぁぁぁっ!!



「!?」

自分の世界に入り込んでいたけれど、今は仮にも朝のHR中。にも関わらず、聞こえてきたのは黄色い声。たぶん下の階からだ。というとことは、1年生。
何だろう?
思うことは皆同じで、不思議そうに顔を見合っている。最終的にその視線が行き着く先は、先生。

「あー…1年に転入生がいてな、そのせいだろう」
「はいはーいっそんな美人なんですかー?」

すかさずリヴァルが声を上げる。
確かに、思わず声を上げてしまうほどの美人さんなのか気になる。

「言っておくが、男だぞ?」
「ちぇーっ。ま、参考までに!」
「ランペルージの弟だ」



「「「はぁぁぁぁ!?」」」

瞬間的にルルーシュの方を見れば、なぜかきれいに頬杖が崩れたところだった。

「先生!?」 「ん?別にすぐに知られることだからいいだろ?」
「そうではなくて!弟ですか!?」
「ルルーシュ!どういうこと!?」
「俺が聞きたい!!先生、名前はなんですか!?」
「ロロ=ランペルージだが、どういうことだ?」
「確認してくるっ」
「ルル!僕も行くよ」

珍しく慌てているルルーシュを追って僕も教室を出る。
どういうことだ?弟の話なんて聞いたことがない。皇族なんだから兄弟はいっぱいいるだろうけど、ランペルージを名乗るなんて。

「ルル!どういうこと?」
「だから、俺が聞きたいと言っている!」
「君の家族じゃないんだね?」
「俺が知る限り、な。血縁にだって、俺と年が近くてロロなんて名前のヤツはいなかったはずだ」
「偽名ってこと?」
「いや、年齢と性別だけ考えても、記憶にない。だが、俺の弟を名乗るとなると」

足音高く階段を駆け下りると、ルルーシュは一番騒がしいクラスの扉を勢いよく開けた。

「失礼」

女の子の甲高い声。と、男の子にしては少し高めの声。

「兄様」
「ロロ…?」

ルルーシュというよりは、ナナリーに似ている男の子がいた。
そういえば、ルルーシュとナナリーはあまり似ていないな。まぁコーネリア様とユーフェミア様も、似ているとは言いがたいけど。日本だと皇族ってみんな似てるけど、ブリタニアは違うみたいだ。
思わず、そんな現実逃避をしてしまうくらい、ロロ=ランペルージは、ルルーシュとナナリーの兄弟であると納得できる容姿だった。

「兄様、びっくりしました?」
「あ、あぁ。何の知らせもなかったから」

悪戯っ子の様相でロロは笑ってみせた。

「ランペルージ?」
「先生、すみません。兄様には内緒で転入したんです。色々と話したいことがあるので、授業を休ませていただきますね」
「ご迷惑をおかけします。学校内の案内なども僕がしますので、初日から申し訳ないのですが、欠席させていただきます」

ロロは表情だけはにっこりと笑顔で、けれどその言葉は有無を言わせない。
ルルーシュも上手にそれに乗じて、優雅に一礼すると連れ立って教室を出た。






屋上の扉を開ければ、広がる青空。吹き付ける風にルルーシュは軽く髪を押さえながら、フェンスにもたれる。

「それで、お前は誰だ?」
「それより、その人は誰ですか?」

にこにこ、その笑顔の裏側で何を考えてるのだろう。

「僕は、枢木スザク。ルルーシュの友達だよ」
「兄様、その人が誰か、おわかりですか?」

するり、とまるで猫のようにルルーシュに身を寄せてそう囁いているのは、誰。
知らない、知らない。お前は誰だ。

「兄様、その人はね」

凍り付いているルルーシュの耳元に密やかに落とされた言葉は。

僕たちの敵なんですよ、と。間違いなくそう聞こえた。










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