夏の花。
朝は朝顔。
昼は松葉牡丹。
夕方は白粉花。

あなたの一番になりたい。


花花花



目覚めてすぐの太陽に向かい、朝顔は愛情の絆の蔓を伸ばす。
短い時間にはかない愛を請うために。

コンコン
控えめなノックの音が2回。
衣擦れの音をさせ、ルルーシュはゆっくりとした動作で寝返りをうった。
「……んぅ」
眠りは浅く、くぐもった声とともに瞼が開く。紫水晶の光は未だ弱い。
コンコン
今度は少し、強く音がした。
クラブハウスの扉は自動開閉する横開きの扉。
ロックをかけて眠るルルーシュの部屋に入るには、中にいる人間が解除する必要がある。
しかし。
シュン
と軽やかな機械音を立てて扉は開いた。
音もなく滑り込んだ人影はためらいもせずにベッドに近づいてくる。
「…ろろ、か?」
「起こしてごめんなさい、兄さん」
まだクリアにならない視界を瞬きで晴らす。
デジタル時計はAM05:10をさしていた。
「どうした?」
寝起きで掠れるルルーシュの声。
返すロロの声は、寝起きではないかすれ方をしていた。
「嫌な、夢をみたんだ」
ベッドの中、身体を横にしてロロを見るルルーシュに視線を合わせるため、ロロはベッドの傍らに跪く。それはまるで許しを請う罪人のようだった。
「こどもみたいだな」
「兄さんより、こどもだよ」
それはまるで愛を請うかのように、ロロは跪いてルルーシュの手を取る。
指3本。きゅ、とゆるく握った。
「一緒に寝てほしい?」
「うん。あと少しだけ」
握った指を引き寄せて口付けた。
まだ太陽は昇ったばかり。白い光に包まれて、あともう少しだけ。
「おいで」
言葉とともに許された距離。握った手はそのままに隣に滑り込む。
「こら、いつまで掴んでるんだ」
「だって」
「もう大丈夫だろう?」
離された手。は、ロロの上を通りその柔らかなブラウンを己のほうに引き寄せた。
とん、とん、と心臓のリズムで髪を撫でられる。
「もう、大丈夫」
「っ!…うん、うん」
「おやすみロロ。良い夢を」
温かな言葉と体温にぐずぐずに溶けてしまいそう。
お願い太陽。ここから動かないで。僕を選んで。

けれど太陽はぐるりと廻る。
常ならば鳴る前に止められてしまう時計は、久方ぶりにその役目を果たして時を告げた。
あと少し、の願いはかなえられず、すがった手は蔓のようにゆるやかに円を描いて戻っていった。










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