その、傷ついた手に口付けを


「僕は戦場に出られない」
ロイドとルルーシュが会うのは一週間に一度、あるかないかだ。ない時の方が多いかもしれない。
そんな短い機会に恵まれた或る夜、ロイドはそう切り出した。
そう、ロイドはルルーシュと同じ戦場に出ることはできない。戦場にはいても司令部とも言える一室でモニター観戦がいいところ。
そんなことはルルーシュもわかっている。
今更何を、と小首を傾げれば、ロイドはまっすぐにルルーシュを見つめて言った。

「君の剣にも盾にもなれない騎士だけど、それでもまだ側においていてくれる?」

戦場では、紅い騎士が常にルルーシュを守っている。
戦場では、白い騎士が常にルルーシュを狙っている。

落とされた言葉にルルーシュは自分の仮面が剥がれていたことを知る。
そんなにひどい顔をしている?今の自分は。
ルルーシュの乗ったナイトメアフレームは、大切な友人の乗るナイトメアフレームによって大破された。
ルルーシュに傷はない。身体的、傷は。
間違っていると繰り返すスザクの言葉。ゼロと黒の騎士団を批判するスザクの顔。
その、スザクにナイトメアフレームを与えた、灰色の騎士。

会うのは一週間に一度、あるかないか。ない時のほうが多いかもしれない。
それでも、会えるのだ。
会って、話が出来る。泣き言なんて言わない。主は毅然としているものだ。
情報交換の後は他愛も無い話で一々内容なんて覚えていない。
それでも、その時間は大切で仕方のない瞬間なのだ。

「お前は俺の騎士だ。剣にだって盾にだってなっている」
今、ここにこうしていてくれる。

真っ直ぐに自分を見つめるルルーシュに、ロイドはゆっくりと頭を下げていく。
そして機械とナイトメアフレームを操り、帝国に立ち向かうルルーシュの手を取り。

『我が唯一の姫君』

口付けるために下げた顔でルルーシュの表情は伺えなかったけれど、その白皙の顔は喜んでなどいなかっただろうとロイドは瞼を閉ざす。
少し哀しそうな顔をしているんだろうね、きっと。
そう思ってもロイドは誓いを止めることなど出来なかった。
だって僕は君の騎士だから。



ぼろぼろに傷ついてそれでも立ち止まらない君の側にいてキスを落とし続けるよ。
ヴィ・ラ・プリンシア。










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