※ 黒乃奈々絵『Vassalord』のパロディ
原作、第一章冒頭をスザルル変換しています。







麻薬よりも性質が悪い



「ルルーシュ様。お客様です」
プールから上がった主の肢体にバスローブをかけながら、カレンは感情の篭らない目でそう告げた。
水滴が伝うルルーシュの白い肌。その、儚げな色の足元はまだ水に浸かっている。お客様は、プールの中に揺らめく人工的な明かりの光源。

ザバァッ

水柱が上がった瞬間、ルルーシュの腹部から生えたのは、赤い華をいくつも散らせた、剣。

「久しぶり、スザク」
「お久しぶです、マスター」

流れる血など気にも止めず、ルルーシュは振り向き微笑んだ。冷たい目で己を見る、隷属を。可愛くて仕方がない、コドモを。
剣を伝い落ちた血がコンクリートの上で音を立てている。
ルルーシュはその身を無数の蝙蝠へと変え、夜空に舞った。残した血からは現れるのは、先程のカレンと同じメイドの衣装を着けた、傀儡。
瞳孔が開ききった彼女達は腕を足を武器に変化させ、スザクに襲い掛かる。
しかしスザクは顔色一つ変えず、上から襲う一人目の腕を切り落とし、背後から爪を伸ばした二人目を、首の後ろから生やしたコードで貫き電撃を食らわせた。
「恥らえ死人。…Amen.」

ルルーシュはそんなスザクの姿を、そこから遠く離れたチェアーで優雅に寝そべりながら眺めていた。隣に立つカレンが被害状況を冷静に報告している。
「強くなったな」
流れる血の匂いなど気にも留めず、ルルーシュは笑う。
そして緩慢な仕草で立ち上がると身につけた黒いシャツの前を止めもせず、テラスの端へと、向かった。
「お待たせスザク」
障害を乗り越えてたどり着いたスザクを労うかのように一言。遠くにいたはずのスザクは、もうルルーシュの目の前までたどり着いていた。
翡翠に映る紫水晶の瞳。スザクはそれを無表情で見つめたまま、剣を。

しかしルルーシュを貫くはずの剣はどこかへ飛ばされ、代わりに己が貫かれていた。
呼吸があがる。
「爪が甘いな。ダメだろう?本体を叩く前に気を抜いては」
楽しそうなルルーシュの声。
「あちこち改造したみたいだな」
無防備に近寄ってくる。爪が甘いのは、どちら。
「えぇ、まだ、改造したところがあるんですよ」

ズンッ

スザクの腹部を破って現れた釘は、真っ直ぐにルルーシュを貫いた。
それなのに隣に立つカレンは主を守ろうともせず、黙って姿を消していた。周りにいたメイド姿の傀儡も、全て。
スザクは、気づいてはいなかったけれど。

ボタボタと音を立ててルルーシュの傷口から血が流れている。
むせ返るような血の香りは、甘美。
くらり、とスザクはそれに酔ったかのような眩暈を覚えた。いや、実際、酔っているのだ。
呼吸は荒くなり、思考が一つに絞られる。

「スザク。2週間ぶりの来訪目的を聞かせてもらおうか?」
圧倒的に、不利なはずのルルーシュは余裕の笑顔で煙草を咥える。火をつけて、一服。
「ヴァンパイアハント?」
スザクはヴァンパイアであるにも関わらず、ヴァンパイアハンターとして活動している。神を讃え善を愛するが故に。
「それとも」
スザクはルルーシュの隷属だ。けれど人間の血を飲むことを良しとしない。飲むのは、ルルーシュの血だけ。神を讃え善を愛するが故に?

「エサの時間かな?」
ぬるりとした己の血。ルルーシュは左手にすくい、見せ付けるように白く細い己の首筋に、塗りつけた。
喰らいついたのは、目の前の餌を前に「待て」すらできない、可愛い犬。






ぴちゃ ぴちゃ
水音はルルーシュの右足から。
素足で出歩いたそこを清めるかのように、スザクは丁寧に水をかける。
先程までルルーシュを殺そうとしていたことなど忘れたかのように、忠実な従者のように。
ルルーシュはゆったりと大きな椅子に腰掛け、それを見下ろしている。

ぴちゃ
見せ付けるように、スザクが足の指を、咥えて、舐める。
親指から人差し指へ。
ちゅ  ちゅく
軽く音を立てながら吸い上げ、舌で舐めあげる。
付け根も指の間も、余すところなく。
視線はルルーシュに合わせたままで。

つぷっ

鋭い犬歯が、食い込んだ。
口内に広がる血は、錆びた鉄のような不快感ではなくそれとは真逆の高揚をスザクに与える。
ちゅる ずずっ
一滴も落とさぬように吸い上げる。もう、床に零すなんて勿体ないことはしない。

「クックックッ」
真剣なスザクのその目に殺されそうだ。
ぞくぞくする。
ルルーシュはスザクがしているように、自分で自分の指を咥えてみせた。
錯覚しそうだ。今どこを咥えられている?

反らされた喉には、牙の痕。
麻薬のような甘い血は、流れて止まらない。










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