再会はそう、本当に偶然で、でも予測は出来たことだった。
お互い、驚きのあまり声すら出なかったのだけど。
全て知っていた私達の主は心底楽しそうに笑っている。
「久し、ぶり。スザク」
「あ、うん。久しぶり、だね。カレン」


彼と彼女の愛情表現 ‐3‐



副総督の部屋には、騎士として初めて顔を合わせる二人と主が一人。
白い騎士の彼。紅の騎士の私。
普通は騎士と主は同じデザインの服を着るのに、主はそれを善しとしない。

「ルルーシュ、知ってたでしょ」
拗ねたように言うスザクに、二人の距離が近いことを知る。
「当然だろう?」
「何で教えてくれなかったの?」
「カレンが言ったんだろ。騎士になった時にわかると。だからだ」
私の気持ちを重んじてくれたのが5割。面白いからが5割、ね。
「カレン。スザクの呼び方でわかっただろうが、人がいない時は前のような口調に戻せ」
思わずもれるため息は、幸せが5割。
「わかったわ、ルルーシュ」

「ねぇ。カレンとルルーシュはどこで知り合ったの?」
「日本占領後だな。あの時、ブリタニアに連れ戻されただろう?それから、あっちで開かれたパーティで何度か、な」
占領。忌々しそうに顔をしかめたけれど、すぐに普段の顔つきに戻って話しを続けた。だから私も、なんてことないように続きを。
だって、約束は果たされるから。
「私は日本で生まれたんだけど、父の都合で一時期ブリタニアに行っていて、そこでルルーシュと会ったの。それからまた父の都合で日本に戻ってきたってワケ。もしかしてスザクが、あの時言っていた日本で出来た大切な友達?」
嬉しそうな、でも少し困ったような顔をしてから、縦に揺れる黒髪。
そこから当時の話に華が咲く。あの頃はいいことなんてほとんどなかったけれど、振り返れば笑って話せるなんて不思議。本当に、その頃は本当にルルーシュがいる記憶だけが大切で幸せなものだった。
ふいに、背筋をゾクリと何かが這う。慌てて見渡せば、一瞬、スザクが私を睨んでいた気がした。
それはほんの一瞬で、すぐにスザクは笑顔を浮かべてどうかしたと聞いてきたけれど。
この寒気の原因が何だかわかる気がするのに、掴む前にこの手をするりと抜けてどこかへ、行ってしまった。




スザクが所属していた技術部は第二皇子の肝いりで、けれど何をどうやったのか、今はルルーシュのものになっているという。
ルルーシュがスザクを自分のものにしたのか、スザクがルルーシュのものになりに行ったのかはわからないけれど。
私の紅蓮弐式も同じところに預けられるというので、今日はスザクと二人、自分達のナイトメアフレームの調整に行く。
「はじめましてぇ。僕はロイド・アスプルンド。君の紅蓮弐式、面っ白いねぇ〜」
「はじめまして、セシル・クルーミーです。ロイドさんはこんなのですが、腕はいいので、安心して紅蓮弐式を預けて下さいね」
「ひどいなぁ君は。まぁいいけど。そんなことよりも、早速だけど、テスト、しようかぁ」
白衣に眼鏡をかけた男はいかにも曲者といった風体。
「ルルーシュ殿下から、目標値が出されてるんだよねぇ」
が〜んばってぇ?
にやりと歪められた目は好きになれそうにないけれど、ルルーシュの名前が出れば別。
もちろん、私とスザクは、共に最高と言っていい値を弾き出した。
にやにやしてるんじゃないわよこのナイトメアフレーム馬鹿。
こんなの、至極当然のことなんだから。



「ねぇカレン。聞きたいことがあるんだけど」
訓練が終わってシャワーも浴びて、これからルルーシュのところに戻る、という時に、スザクはそう切り出した。
まるでいつかを彷彿とさせる顔。
あの時、何を思って私に尋ねてきたたの?
「何?」
「君は、ルルーシュのことが好き?」
何かと思えばそんなこと?
「もちろん好きよ。じゃなきゃ騎士になろうだなんて思わない」
好きよ好き。とっても大切。
たった数回しか話していないのに、病的なまでに虜になった。
「スザクは?」
「好きだよ」
ねぇ気づいてる?
私を見る目。
まるで倒すべき敵を見るかのように真っ赤。
「愛してる」

あぁ、そう。そうなのね。
本当に、彼を愛してるんだ。
そして彼もきっと同じだけ返してる。
だからあの時、複雑そうな顔をしたんだ。
友達ではなく、コイビトだと。
私が気になったのは、きっと密やかな甘い空気。
私が掴めなかったのは、きっと密やかで激しい嫉妬。
良かった。彼は今、幸せだろう。
その答えは私の心に綺麗にはまった。
だから自信を持って私も返す。

「そう。私も愛してるわ」

突然だった。
スザクが行動を起こしたのは。
目の色は、さっきまでよりもより深い赤。

掴まれたのは、首。
後頭部が壁にあたった。
足が空中を、泳ぐ。
感じるのは鈍痛。
息が、

「愛、してるわよ。何っ、が、いけ、ないっ?」

「君の息をこのまま止めてしまいたいよ」

質問には答えず一方的にそう言っい放つ目は、まるで血の色。
空気が、足りない。
目の前が霞みかかった時に、腕は、下ろされた。
お尻から落ちたはずなのに、痛みを感じない。
それよりも、息を。
「げほっ…はっ」
きっと首には真っ赤に手の痕が残っている。
いや、蒼くなるかもしれない。
痕がどう残ろうと構わない。それよりも馬鹿馬鹿しくって笑えてくる。
「はぁっ…ほんと、スザクって馬鹿よね」
わかった。あの時なぜスザクが騎士になる理由を問うたのか。
一人で勝手に不安になって、馬鹿みたい。
「何が言いたい」
「あのね、私、は、ルルーシュを愛して、いるけれど、だけどね、あなたと、私じゃ、全然違うのよ」
まだ息は不規則。
「私はルルーシュの剣になって、ルルーシュを守る。私が願うのは、ルルーシュの幸せ」
そう、彼を守りたいと思ったんだ。きっと彼は一人で傷ついてしまうから。
「だからね、私と幸せになってもらいたいとは思わないの」
わからないって顔。
だけど瞳の色はいつもどおりの翡翠になった。
馬鹿みたい馬鹿みたい。
私は知ってるのよ。彼が日本で出来た友達の話をする顔を、日本を取り返すと言った瞳を。

「私はルルーシュが幸せなら、それを側で見ていられたら、それで幸せになれるのよ」



彼と彼の幸せを守ること。それが私の愛情表現。
独占したいと思うのが、きっとスザクの愛情表現。

さぁ帰りましょう。愛しい人が待っている。





[ end ]








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