しあわせな僕のまいにち


僕の朝は、ご主人様であるルルーシュを朝6時に起こすことから始まる。
そんな僕のハウスはルルーシュのベッドのすぐ側にあって、ドアを外されたケージに「ハウス」の声で入って朝6時までゆっくり眠る。
僕の体内時計は正確だから、ルルーシュに目覚まし時計なんて要らない。
さぁ6時だ。

きゅ〜んきゅ〜ん (ルルーシュ、起きて!)

僕の種族はウェルッシュ・コーギーというらしい。短い足に長めの胴。尻尾は生まれてすぐに切ってしまうから、尻尾を振れない代わりにお尻をふってみせる。
足が短い、というのは不便なことも多くて、僕はルルーシュのベッドの上まで上がれない。だからこうして毎朝小さく鳴くんだ。
そして前足を使ってシーツを引っ張る。

「ん…んぅ」
くぅ〜 (ルルーシュ、朝だよー)

カリカリカリとひっかけば、低血圧のルルーシュがゆっくりと寝返りを打ってベッドの端まで来てくれた。

きゃんっ (おはよう)
「ん、おはよう、スザク」

今日も僕のご主人様はとても綺麗だ。髪の毛は夜よりも綺麗な黒だし、目の色はどんな花より鮮やかだし、あとはそれから。
僕は僕のご主人様の声も大好きだ。少し低めの声で命令するのも、少しだけ甘くなった声で話しかけてくれるのも、ぴくぴく動く大きな耳でどんな小さな声だって聞き取ってみせる。

「散歩に行こうか」
わんっ!

着替えたルルーシュにだっこしてもらって階段を降りる。僕は一人じゃ階段を上ったり降りたりできないから、いつもルルーシュが手伝ってくれる。それかルルーシュの大事な妹のナナリー。僕は少しだけ、短い足に感謝する。

ルルーシュが洗面台に向かっている間に、僕はとてとてと走って自分のリードを咥えて待っている。そうすると戻ってきたルルーシュがカチリとリードをつけてくれて、お散歩道具を手にドアを開けてくれるのだ。

「天気が良くてよかったな」
わんっ! (僕はルルーシュと一緒なら何でもいいけどね)

ルルーシュは僕のお散歩をした後ご飯も作らなくちゃいけないから、お散歩の時間はそれ程長くはない。でも僕の幸せな時間。そして、一番油断できない時間。
あぁホラ、嫌な匂い。

「おはようございます、ルルーシュくん」
「おはよう、ルルーシュくん」

動きやすそうに広がるスカートに低めのヒール、帽子を被った長い銀髪の千草さんと、その恋人の扇さん。新婚ラブラブって空気を惜しげもなく振りまいている名物カップルだ。僕もこの人たちは嫌いじゃない。だってルルーシュに優しいし、ルルーシュもこの人たちを好きみたいだから。
問題はそう、躾のなってない柴犬だっ。

うぅぅぅぅ〜っ (ルルーシュに近寄るな!)
ぐるるっ (あんたこそ離れなさいよ!)

「こらっ!カレンったらまたスザクくんに吠えて」
「スザクも、どうしてお前はカレンと仲良く出来ないんだ?」

この二人の飼い犬、カレンとは犬猿の仲だ。犬同士だけど、猿みたいな色してるしいいと思う。
僕とカレンが喧嘩するのは日常茶飯事なので、ルルーシュも呆れるだけ。
なんでカレンと喧嘩するかって?そんなの簡単。カレンは隙を見せるとルルーシュの足元に擦り寄っていくんだ!

きゃん、うーっきゃんっ (早く行ってくれない?ルルーシュは僕のご主人様なんだけど)
わう、わんっ (何であんたに命令されなきゃいけないわけ!?)

「もぅカレンったら。ルルーシュくんには懐いてるのに、どうしてスザクくんとは仲良くなれないのかしら」
「カレン、スザクが吠えてすまないな。また明日」

きゃんっ (僕は悪くない!)

「こら、スザク」
「いや、ルルーシュくん、カレンが吠えるのも悪いから。な、カレン。じゃぁまた明日」

ふんっようやく行ったか。
と、思ったのに。

「またな」

するり、とルルーシュがカレンを撫でた。

くぅ〜 (またね、ルルーシュ!)

嬉しそうなカレンの声。ついでに、去り際に僕に、羨ましいでしょ、と言わんばかりの得意げな笑顔を向けてきた。

きゃんきゃんっ (明日は絶対触らせない!)
「全く、スザク、吠えすぎだぞ」
きゅう〜ん (だって、ルルーシュがカレンを撫でるから)
「仕方ないな、ほら、行くぞ」

ルルーシュが僕を撫でてくれて、そこでようやく僕は機嫌を直してルルーシュについていく。僕がいくら話しかけようとしてもルルーシュには半分くらいしか伝わらないけれど、こうやって触れてくれるだけで僕は温かい気持ちになれるんだ。

「あら、ルルーシュくん。おはよう」
「おはようございます、セシルさん」
「お〜はよ〜」

折角、ぽかぽかな、気持ちに、なれたと思ったのにっ。

現れたのはどこかの研究所に務めているという怪しさ全開の上司部下コンビ。もとい、夫婦漫才コンビ。一応セシルさんが部下らしいけど、上司のロイドさんがふらふらしすぎていていつも怒られている。
恐妻って、こういうことを言うんだと思う。

「おはよう、ランス」
「おはようスザクくん」
「あは〜相変わらずこの二人は、仲良いのか悪いのかわかんないねぇ」

君からだけデータが取れなくて困るんだよねぇ。あ、あとあの柴もだっけ。
ルルーシュの耳には入らないくらいの声で言われる不吉な言葉。
そう、僕はルルーシュに近づく犬共を散々威嚇して遠ざけてきたけれど、このランスロットだけは処置に困っていつも睨み合うだけなのだ。
なんというか、敵ではない気がするけれどどことなく僕とは違うように思えて、落ち着かない。

第一、ルルーシュが撫でているのに大人しく顔を摺り寄せるだけなんて、行儀が良すぎる。
でも危害を加えるわけでもないから、僕はいつも何があっても飛び出していけるように体勢をを整えて大人しくしている。

「ランスは他の子にも吠えないんですか?」
「怖がられちゃうみたいなの。この子は吠えないんだけど、むこうが吠えたり逃げたりしちゃうのよ」
「そうなんですか。ちょっと寂しいですね。でも、スザクも少しは見習ったほうがいいんじゃないか?」

な、と僕に向けてルルーシュは言うけれど、それは無理。だってルルーシュに構ってもらいだがる犬が多すぎるから。ルルーシュは僕のご主人様なんだから、僕以外なんて構わなくて良いのに。

「スザクくんは、ルルーシュくんを取られちゃわないように必死なんですよ」
「…やきもち焼いてる、って言いたいんですか?」
「せぇいかぁい。君も大概、おこさまだねぇ〜」
わうっ (余計なこと言わなくて良いですから!)

ふっと楽しそうにルルーシュが笑っているのは嬉しいけれど、話題は全然嬉しくない。

「それならスザク、早くボール投げしに行こうか。それでは失礼します」
「えぇ、また明日」
「またねぇ」

ひらひらと手を振るロイドを見送り、いつもの公園へ。
また明日、と挨拶するのは、夕方は仕事や学校の都合で時間が合わないからだ。朝はたくさんの家族に会うけれど、夕方のお散歩で会うことはほとんどない。
だから僕は、夕方のお散歩が一番好きだ。夕方はナナリーと咲世子さんとも一緒に歩けるし。

そして公園でボール投げを楽しんだら、僕の朝の時間はお仕舞い。
ルルーシュは帰ったらご飯の用意をしてナナリーと学校に行く。僕と咲世子さんはお留守番だ。
ここからは、僕と咲世子さんとの訓練の時間。
ルルーシュとナナリーは勉強しているから、僕らもお勉強だ。

わんっ (いってらっしゃい、ルルーシュ!ナナリー)










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