朝起きたら、胸が膨らんでいた。


「ほぇあ!?」


男女逆転祭り☆



落ち着け冷静になれ一先ず着替えよう、と開いたクローゼットの中にあったのは、いつもの黒い詰襟ではなく、カレンたちが着ているあの尋常じゃなく丈の短いスカートだった。
俺が、これを着るのか?いや、以前着せられたことはある。しかしあの時と今じゃ全く状況が違うだろう!?
女の体型でこの女子制服を着る方が当然のことではある、ではあるのだが。
ものすごく、抵抗したいのは何故だ。
気が進まなすぎるために着替えの手はひどく遅いが、責められる謂れはない。
足がっ足が空気に触れすぎる!
女なら男の時と違う感覚で着れるかという一筋の希望は泡と消えた。
そう、俺は昨日まではしっかりちゃんと男だったのだ。
何が起きている!?
部屋にいないC.C.をまず捕まえるべきだろうか。いや、その前にナナリーに気づかれないことが重要だ。
そっとドアから首だけだし、辺りを見回す。
誰もいない、静まり返った廊下。
「よしっ」
一歩、踏み出そうとしたその時だった。
「ルルーシュ様?」
「はいっ」
かけられた声に思わず返事をしたものの、気配を感じなかった人物からの声に警戒が高まる。
聞きなれない声に振り向き、きっと睨みつけたが、そこに、いたのは。

「咲世子、さん?」

清楚なメイド服とはほど遠い、タイトなスーツを身に纏った男が、そこにいた。
「おはようございます、ルルーシュ様。驚かせてしまい、もうしわけありません」
「い、いや。いいんだ」
そんなことよりも昨日まで女性ではなかったのだろうかと違和感を覚えているのは俺だけなのだろうか。
向こうもこちらの服装に疑問を覚えているわけでもないようだし、これはもしかしてもしかすると俺の記憶とは全員性別が逆転していたりなんてしてたりするのではなかろうか。
「ナナリー様がお待ちですよ」
ぐらぐらする思考はそのままなのに足は勝手に元彼女で現彼の後ろをついていく。
ナナリーが、男になっていたら。そうしたら、この状況を。
「おはようございます、お姉様」
閉ざされた瞳で優しく微笑む可愛くて仕方のない妹は、長く波打っていた柔らかな髪を短く切り落とし、華奢なその身をワンピースではなくシャツとズボンにおさめていた。
中性的な容貌ではあるが、まぎれもなく、弟。

ナナリーが、男になっていたら、この状況を。
「受け入れ、られるかぁぁっ!!」
C.C.!絶対アイツが何かしたな!?
ナナリーはナナリーのまま大事なナナリーだが、いきなり性別逆転されてそれをあっさりと受け入れられるほど俺は柔軟にはできていないっ。
いや、もちろんどんな姿でもナナリーは大切な俺の家族だ。だがっ。
「誰か説明しろ!」
受け入れるのはそれからで遅くないだろう!?
リビングを飛び出した勢いのまま、俺は学園に向かって駆けて出した。

「ルルーシュ!?んな急いだらパンツ見えるぞー」
「は!?」
かけられたあんまりな台詞に足を止めた、つもりがもつれてバランスを崩す。
「う、わ」
斜めになる世界の中で、俺に声をかけた灰青のはねっ毛が慌てたように駆け寄ってくるのが見える。
やはりというか、女子制服。
このまま地面に倒れこんで気を失えたらどれだけいいだろう。
そんなことできるわけないと知っている身体は衝撃に備えて目を閉じた。



「あっぶないなぁ、ルルちゃんは」
近づく地面に、目を瞑って耐える気でいたのに。
背後から腰に回された腕の感触。たった一本で支えられていた。
スザクじゃない。
それだけはわかったけれど、ならこんなことができるのにあんな風に言うのは、誰だ。
「かい、ちょぉ?」
「そんなに急いでどうしたの?」
ぐい、と引き上げられ、気づけば背後から抱きしめられていた。
「会長!?」
振り向けば豪奢な金髪も楽し気に細められた目も昨日のままなのに、長身で体躯のしっかりとした男がそこにいた。
・・・なんとなく、敗北感があるのは何故だ。
「相変わらず細いし軽いなぁ。ちゃんと朝ご飯食べて来た?お兄さんが胸おっきくしてあげようか?」
「はぁ!?」
なんだその理論展開は!?
逃げたいと思うのに腹部に回された左腕のせいで身動きがとれない。
不穏な動きをする右手が太ももをなぞっていく。
「やっ・・・かいちょ!?」
オーバーニーソックスの縁をなぞった手はそのままするりと簡単にブレザーの合わせ目に入り込む。
「かいちょ、も、放しっ」
シャツの上を這う指の感触に身体のどこかがぞくぞくと反応して、嫌だ。
下着のラインをなぞった指は、それだけにとどまらず、少しだけ膨らんだ胸をやわやわと揉み始めた。
「や、も。ほんと・・・ダメ・・・・・・っからぁ」
俺は男で会長は女だったはずなのにっ!
なんでこんな目にっ。
目じりに生理的な涙が浮かんできた時、ふいに周りの空気が変わった感じがした。
「?」
下を向いていた顔をあげれば、楽しそうな会長の顔。
それと。
「そこまでですよ、会長」
柔らかく微笑む、ふわふわとした茶髪。
「スザクっ!!」
ぐいっと会長の拘束から俺を自由にするその腕。
「大丈夫だった?ルルーシュ」
そのままスザクの腕の中に抱き込まれる。
ほぅ
安心して息を吐き出す。ぎゅっと抱きしめられるのも嬉しい。

のだけれど。 この、胸にあたる柔らかい温もりは何だ。

信じたくない。
信じたくはないのだけれど、確認せずにはいられない。
そろそろと、視線を下ろしていけば、そこには。
「胸っ!?」
俺とは違って制服の上からでも膨らみのわかる胸が、あった。

「や―――っ!!」






現実逃避な俺の叫びが、拘束着を纏った男をにやりと笑わせたことなんて、俺は、知らない。










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