所有権


パチン パチン
手慰みに折りたたみ式のナイフを開閉する。
パチン パチン
兄さんは、もうそんなことしなくていいと言った。
パチン パチン
人殺しの道具を玩ぶ。
パチン

手品みたいにナイフを消す。
スプリングの聞いたベッドから立ち上がって、ドアを開けた。

銃も、ナイフも、僕は使うことができる。
ギアスを使えば、簡単に殺すことができる。

僕はギアスを使えるから必要とされる。
僕の存在価値を僕はきちんとわかっている。

ギアスが使えなかったら僕は要らない。
人殺しができなくなったら僕は要らない。

なのに。

「ロロ?どうした?」

ノックをすればすぐにドアが開く。
中にいたのは、僕の未来を約束してくれた人。

兄さんは人殺しなんてしなくて良いと言った。
兄さんは人殺しをしているのに。
僕にはしなくていいと言う。

「ねぇ、兄さん。このロケットは、僕のものだよね?」

ぱちり、と音がしそうなくらい、その瞬きはゆっくりとしたものだった。
透明度の高いアメジストみたいな瞳が隠れて、また現れる。
この一瞬に兄さんが考えていることがわかればいいのに。

「ロロのものだよ」
「良いの?誰にも、渡さないよ?」
「それは、ロロにあげたんだ」

子どもに言い聞かせるみたいに、兄さんはそう言った。
少し呆れたみたいな、仕方ないな、と言うみたいなニュアンスで。
それでも僕はまだ言い募ってしまう。
どうしてだろう。何度だって確かめたいんだ。

「返して、って言われても、返さないよ?」

誰にも触れさせない。兄さんにだって、触れさせない。
だってもし誰かに触れさせて、汚されたら、傷つけられたら、どうすればいい?
もし、奪われてしまったら?
これは、ルルーシュ=ランペルージがロロ=ランペルージにくれたもの。
偽りだらけの僕らの世界でも、それだけは絶対に信じたいんだ。

「何、泣きそうな顔してるんだ?大丈夫、もう返せなんて言わないから」
「本当に?」
「本当に。ロロが気に入っているなら、別のものに代えるなんて言わないよ」
「僕は、このロケットがいい」
「気に入ってもらえたなら、良かった」

くしゃり、と僕の髪に手をいれて撫でてくれる。
ねぇその手は僕と同じ色だよね。
だからね、気にしなくていいんだよ。
僕はその手を拒まない。だって同じ色だから。
兄さんは、僕に手を伸ばしてくれたんだよね?
僕はもう、その手を握ってしまったよ。

何でもするよ。
“スザク”に気づかれずに“ナナリー”に愛を囁くためにギアスを使うよ。
ゼロを守るために敵を駆逐するためにヴィンセントに乗るよ。
邪魔な奴がいたらいくらでも殺すよ。
兄さんがその手を伸ばしてくれるなら、何でもできる。

「僕は、兄さんの弟だよね」
「まだ何か不安なのか?」
「うん」
「おまえは、俺の弟のロロ=ランペルージだよ」
「うん。うん」

ため息交じりに答えをくれて、そのまま僕を抱きしめてくれた。
兄さんの肩に顔をうずめる。目の奥がなんだか熱くなって、ぎゅっと瞼を閉じた。
とん、とん、とゆっくりとしたリズムで頭を背中を撫でられる。
どうしていいかわからなかったけど、やめて欲しくなくて兄さんの背中に手を這わせた。
痛くしないように、それだけ気をつけて力を入れて、抱き寄せた。
右手には兄さんの着ているシャツ。左手にはロケット。

“スザク”には絶対に触れさせない。“ナナリー”には絶対に返さない。
これは僕のもの。
あぁ、でも。
どうしたら僕だけのものにできるかな。










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