鳥の話


あぁーん うわぁぁぁん

泣き声がする。子どもの、それも女の子の泣き声だ。
声の方へと一歩踏み出せば、足が草を踏んだ。それが何故か意外に思えて地面を見やれば、敷き詰められた芝生。あぁ、ここは1枚の落ち葉もなく整えられた庭の中だ。
そう、俺はここを知っている。

「ユフィ」

ひっひっぅ

「そこにいるのは、ユフィだろう?どうしたんだ」

しゃくりあげるような嗚咽が段々と大きくなる。いつも笑顔を絶やさない彼女の泣き声は、聞いてるこちらまで泣きたくなる。
中々姿が見えないことに、足の遅さに苛立ち思わず舌打ちを一つ。子どもの身体はどうしてこんなにも扱いづらいのだろう。

アイツは同じ体躯でも全然違って、きっとあっという間にユフィの元にたどり着けるのだろうに。

不意に、そう思った。けれどアイツが誰だか思い出せない。
そこまで考えたところで、視界が開けた。
広大な庭の中、花に埋もれるようにピンクが見える。

「ユフィ」
「…っくぅ。るるー、しゅぅ」

うずくまるユフィの目の前に立てば、ようやく彼女は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げた。
半ズボンのポケットからハンカチを出して渡してやる。

「どうした?」
「ゆふぃ、のっ」
「ユフィの?」
「鳥さんがぁ!」

そこまで言うとまた泣き出してしまう。
困った。
俺が渡したハンカチは右手で潰されてしまったいた。そして左手は。
何か、持っている?
壊れ物でも持っているかのように、左手は緩く握られている。中に見えるのは、羽。紅の羽がのぞいていた。

「鳥が、死んでしまったのか」

びくっと小さな身体が跳ねる。まだ短い髪が、揺れている。
ようやく止まった嗚咽に安堵した。

「動かないの。ユフィの、鳥さん」

もう一度、顔を上げたユフィの顔は、長く伸びた髪が隠してしまった。子どもの頃と比べると随分長くなったなと、どうでもいいことを頭の隅で思う。

「死んでしまったのよ、ルルーシュ」
「そうか」
「先にね、桃色の羽の子が死んでしまったの。二人きりだったのに、この紅の羽の子は一人ぼっちになってしまったんです。そうしたら、すぐ」
「番だったのか?」
「違うと思います。でも、籠の中には二人だけだったんです」
「何の鳥かは忘れたが、番の鳥は、片割れが死ぬともう片方も後を追うように死んでしまうと聞いた」
「寂しかったのでしょうか?」
「さぁ。ユフィがそう思うなら、そうなんじゃないか?」
「ルルーシュはどうなのです?」
「番の片翼が死んでしまったら、鳥籠の中に鏡を入れておくんだ。そうすれば、鏡に映った自分の姿を片翼だと思うらしい」
「半分では生きられないのですね」
「きっとな」
「お墓を、作って下さいますか?」
「ユフィは作らないのか?」
「だって、私は作れませんわ」
「どうして?」

「ねぇルルーシュ、聞いてくださいね。私、きっとルルーシュが初恋でしたわ」



殺したのは、俺。






「ルルーシュ?」

目の前には翠。茶色の毛先が跳ねている。

「…す、ざく」
「どうしたの?ルルーシュ。もうお昼だけど、もしかして寝てた?」
「何か、言ったか?」
「大丈夫、全然気づかなかったよ。寝言も言ってないから安心して」
「それは、良かった」
「どうかした?顔色悪いけど、寝不足?」
「いや、ただ」
「ただ?」

「鳥の夢を見たんだ」










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