きみとふたりはんぶんこ


「あ―――今日は激パピコの気分」

軽く汗をかいて朝練終了。ロッカー前でシャツのボタンをだらだらと留めながら、いきなり宍戸がそう言った。
カレンダーは6月をめくり終えたばっか。空が意外なくらい高くなって、今日なんて絶対あれラピュタあるって!ってレベルの入道雲が浮かんでる。
まぁアレだ。もうすぐ夏だ。

「男なら黙ってガリガリくんだろ」
パピコってなんだパピコって。かわいすぎだろ。チョコ味だし。
それに比べたらガリガリくんは断然硬派だ。お値段据え置きだし。
ただ意外と当たらない。毎日食ったら何日目で当たるかレギュで対抗戦やってみたいな。あれ?結構イイ案じゃね!?

「俺はガリガリくんとスイカバーなら、スイカバーをとる」
何か参戦してきやがった。パピコとガリガリくんの聖戦だったのに!
「ばっかお前!スイカバーなんてなぁ、あのチョコの種が邪道じゃんか!しかもBIGとか!下んトコもメロン味だし!まずいわけないし!!」
ガリガリくんは死ぬまでガリガリだ。だって硬派だし。勝てるわけ無いだろ!
「スイカバーはBIGすぎて喉に刺さりそうになんねぇ?あの棒が」
「あーわかるわかる。あとメロンとけてくる」
「でも好き」
「わかるわかる」
「ガリガリくんは100円でお釣りがくるのが魅力的だよなー」
「んな安かったっけ?」
「税込み62円」
「マジか。惚れた」
「まぁ今日はパピコなんだけど」
頑固なヤツ。そういえばスイカバーのパッケージに印刷されてるキャラ、なんでカバなんだろって思ってたけど、スイカバーだからなんだよな。安直。いやシンプルイズベスト的な何かなのか。気づいたのが割りと最近で、今まで気づかなかった自分に軽くショックだったのは誰にも言えない。だって今更すぎるだろ。

なんて考えてたら宍戸がさっさとロッカーを閉めていた。
髪切ってからコイツの着替えが早くなった気がする。っていうオレもちゃんと着替え済みなんだけど。

持ち上げた鞄はいつもより重い。侑士に言われて歴史の教科書持って来たからだ。こないだ侑士のザビエルを芸術的にしてやったら超怒られたんだよなー。見んなよそんな前のページ。つぅか3年までザビエルが無傷だったことにびっくりだよオレは。
ガチャ、とノブを捻っる音がして、宍戸が先にドアをくぐった。

「あち―――」
「だからパピコ」
「わかったって」
言い出したら聞かないヤツだ。嫌いじゃないけど。
「つかパピコ食えんのって部活終わった後じゃね?お前一日それ言ってそー」
「せやなぁ」

いきなり声が割り込んできた。メガネだ。
「いきなり入ってくんなよ」
ナイス宍戸!オレとシンクロだぜ。
「ひどいなか亮ちゃん。俺と亮ちゃんの仲やん」
「ごめんオマエ誰?岳人知ってる?」
「や、オレも初めて会うわ」
「ちょ!がっくん!!パートナーやん俺ら!!」
「オレ変態のパートナーなんていらない」
「偏見ちゃう!?話に入ってみただけでこの扱いかおいしいな!」
「はいはい良かったなー…って宍戸迷子?教室こっちだろ」
侑士とバカ言ってたら、宍戸が変な方に歩き出してた。そっちカフェテリアとか購買だよな?
「だからパピコ」
「え、だからパピコなんてココにねぇだろ」
「せやなぁ。ウチの購買の冷凍ケース、ダッツやらジェラートやらお高いのしか置いてへんやん」

「あ――?あぁ、去年からあるぜ。ってか俺結構食ってるよな?」
そういや冬に雪見とピノ食べてたな。幸せのピノをジローに食わしてやってる写メ取ったら跡部にデータ消された。しかも消す前にアイツ自分のケータイにデータ移しやがった。アホベめ!!
「俺、買うてきたモン部室の冷凍庫で冷やして食べてるのかと思うとったわ」
「どんだけアイス好きなんだよ俺」
「冬に食べてる時点で相当なアイス好きだって」
「まぁ好きだけど」
好きなんじゃん。

「待ち、雪見もピノも購買で買うたん?」
「ったりめーだろ」
「俺の記憶が正しければ、1年の冬には無かったはずやけど…?」

なんか侑士の口元やらしい。メガネ反射して目ぇ見えなくなんてんぞ。
「2年の夏ぐらいかな?あ、夏終わりぐらいだな。入った」
自動ドアが静かに開いて、宍戸がフラっと購買の方へ歩いてく。
2年の夏って言えばアレだ。なんか宍戸がアイス食いたいって騒いでたな。うん。そうそう。跡部にうるせぇって散々言われてた。

校舎内に入ったらなんとなく涼しい気がした。っていうか寒い?寒くね?
チラって悔しいけど見上げる角度にある侑士を見れば、なんか苦手な甘いケーキでも食べたみたいに顔が歪んでた。
あ、オレのカン大当たり?

「けぇご。パピコ食いたい」
つ、と真白いシャツをひっぱってみる。まばたき2回。間をとって、侑士がニヤって笑った。キモイ。
「あーん?勝手に食えよ」
「やだ。今食いたい。なんで学校には置いてないんだよ」
「なんで置いてあるって思えるんだよお前は。我慢しろ」
「やだ。今食いたい。今パピコ食わないと死ぬ」
なぁーとか言いながら侑士の首に両手を回す。侑士はムカツクことにちょい背をかがめてオレの腰に手を回した。
ガリガリくんは侑士のオゴリに決定。
「バカか。家まで我慢しろ」
「じゃあけぇごのオゴリな」
「あぁ。わかったわかった」
「俺やさしーから半分やるよ」
ぽんぽん、って跡部が宍戸の頭を軽く叩いて、宍戸が回した手を戻したところでご本人様登場。

「…………何やってんの?」
「「再現ドラマ」」
「何のだよ」
戻ってきた途端すげぇ呆れた声すんなよ宍戸。オレがバカみたいじゃん。
8割近く正解だと思うんだけどどうよ?
「や、亮ちゃんのおねだりで跡部がアイスの入荷決めたんかなと思うて」
「んな権限ねぇだろ」
「跡部ならやりそー。購買のおねーさんにオネガイとかして」
あ、すげぇやりそう。つぅかやっただろ。
「激ダサ」
ビッって勢いよく袋を空けてパピコを取り出した。パキンって半分こにして、口を食いちぎる。
おにーさんおにーさん、ちょっと目元と口元緩んでますよ。
もぐもぐしてる宍戸を、オレは跡部でもジローでもないから可愛いなんて思わないけど。まぁ気持ちはわかってやろう。

「ガリガリくんあった?」
「おー。今なら梨味もあるぜ」
「あえてソーダで!侑士!ソーダ!」
「俺かいな。まぁえぇけど。いい子で待っとき」
すぐに戻ってきた侑士の手にはソーダと梨。さっそく開けて教室に向かう。だって早く食わねぇと溶けるし。
「あー思ったよりイケるわ梨味。この人工的な味がえぇな」
「だろ?」
「亮ちゃんはパピコもう1本いくん?」
「んー今日はそんな贅沢な気分じゃねぇんだよな」
氷帝広しといえども、跡部のすぐ近くにいるくせにこの発言が続けられるのってコイツくらいじゃねぇのって思う。ナイス庶民。その金銭感覚大事にしていこう!オレも商売人魂として金銭感覚鈍らせたくないんだけど、氷帝にいると狂うんだよなー。
なんて思ってたら、廊下の向うからわんこが来た。やっぱデカいな。

「宍戸さん!お疲れ様です!!あ、向日先輩と忍足先輩も」
クソクソわんこめ!宍戸と完全に区別したな!
「何食べてるんですか?」
にこにこにこ。って音がするぐらい笑顔だ。一緒にいるダチが若干引いてるぞ。あ、レギュが4人揃ったせいだって?
「……オマエもパピコ知らないな!?」
「え?何ですか?ぱぴ…?」
「やる。食え」
ずい、と半分こしたパピコをわんこの方に向ける。
「え、いいんですか?」
「コレは2こセットで売ってるヤツなんだよ。パピコ知らないなんて人生の3割は損してる。いいから食え」
「セットなんですか!お得ですね」
いや、そのセット販売とは違うから。多分お得ではない。
「ありがとうございます!!」
で、わんこはどう見ても教室移動中なんだが。ソレどうすんだよ。いかにもお育ちがいいですってコイツがオレらみたいに食べ歩きするわけねぇし。

そこでなぜかオレにはわんこがパピコを大事に持ち帰ってジップロックに入れて、「●月●日 宍戸さんからのプレゼント」って書いて冷凍庫に入れる姿が見えた。
「あー…食わんやろなぁ」
侑士がオレにしか聞こえないぐらいの声量でボソっと言った。
さすがマイパートナー!伝わったか!!
ついでに言うと、部活で跡部にボロクソにしごかれる姿も見えた。

ちなみに言うと、テニスコートでオレの予想は大当たりする。
あーあっちぃ。










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