01.一段上に立ってみる


灰色の学ランの群れ。
灰色のセーラー服の群れ。
灰色の空。灰色の煙はタバコ。

赤いのは、嫌味な男の髪の色。

「あなたもサボりですか?」
優等生の化けの皮はどこへ行った。
灰色の煙なんて吐き出して。慣れた手つきで携帯灰皿なんて取り出して。
「おまえを見たら気が削がれた」
「残念。折角捨てたのに」
俺が煙草を嫌いなことを知っての動作。
整えられた爪は絶対に煙草の匂いが染み付いている。
「どこでサボる?」
寄りかかっていた屋上のフェンスから軽い動作で離れ、気づけば目の前に制服が。
「貴様のいないところだ」
「それは無理だね」
目の前は灰色一色。
かすかに香る煙草の銘柄が思い出せない。
ギィ
俺に覆いかぶさるようにして蔵馬が開けたのは、後ろにある扉。
「さぁどこにいこうか?」
「…好きにしろ」
煙草の匂いは嫌いだだから早く早くどいてくれ。
こんなことしなくても扉ぐらい開けられるだろう。

カンカンカンと、先ほど上ったばかりの階段を下る。
横を見れば灰色。
カン
灰色ばかりを見るのが嫌で、足を止める。
カン
たった一段。
その間に俺が立ち止まったことに気づいた蔵馬も足を止める。
一段上に立ってようやく見えたのは、緑。

「ようやく目を合わせてくれたね」
にやり、と、緑、が、歪んだ。



一段上に立ってもどうしたって縮まらない。
この距離は何だ。










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