子猫を愛でる方法


ヒトに慣れない子猫には、たくさんの愛を捧げましょう。
しかし、いくら可愛いと言っても、あまりにかまいすぎてしまうと子猫に嫌がられてしまうかもしれません。
このさじ加減はとても難しいので、もし嫌がられてしまったら、フォローをしっかりとしてあげましょう。



「触るな」
別に、なんてことなかったはずだ。口が悪いのなんて今更だし、こういう風に言うのだって別に初めてのことじゃない。
な の に
何なんだこれは!

飛影の機嫌が、最高に悪い。
本日の飲み会会場は幻海邸。普段なら飛影は参加しないが、主催の幽助に巧く騙されて参加を余儀なくされている。
なんだかんだ、人生経験の浅い飛影はこうしてよく騙され誤魔化され、人の輪のそばに行くことになる。
そう、別に初めてのことじゃないのだ。こうして望まぬ会にひっぱり出されるのは。だから、飛影の不機嫌さは自分のせいではないと、幽助は自分を慰めた。
自分が原因でなければ、飛影の機嫌をあそこまで損ねるけとができるのはただ一人。その原因になりうる男に声をかけた。
「蔵馬ー。お前何やったんだよ」
こそりと尋ねれば、近くにいた蛍子も同じようで違う問いを発した。
「そうよ、蔵馬くん。飛影くん拗ねちゃってるじゃない」


……はい?蛍子さん、今なんておっしゃいましたか?
「………拗ねる?」
思考が固まったのは、問われた蔵馬ではなく、幽助。
蔵馬が原因で怒ってるんじゃないのか?拗ねるって、何だよ!?
葛藤する幽助を無視してオンナノコは攻勢を強める。
「今日だって、全然飛影くんかまいに行かないし。あんまりいぢめると、嫌われちゃうよ?」
ちょっと待て蛍子。俺にもわかるように説明しろ。
とりあえず落ち着こう、と動揺している幽助は酒を呷る。
「あれ。蛍子ちゃんは気付いてたのに、幽助はわからなかった?」
結構わかりやすいと思うんだけどね。と蔵馬は態勢を整えようとする幽助に追い打ちをかけた。
「大丈夫。気付いてるのは、私と雪菜ちゃんと静流さんだけだから」
にっこりと笑顔で答える蛍子に、だから、いつから何を気付いてるんだよと幽助の混乱は深まるばかり。
察しがつかないほど鈍感ではない。ただ、酒に酔ったわけでもない思考が上手く働かないんだ。いや、なんというか、アレだよな。別にソウイウ関係を否定するわけじゃないが、今まで気付かなかった事実が飲み込めないんだ。だからもう少し、理解できるまで待ってくれ。
しかし幽助の儚い希望はあっさりと拒否された。二人とも幽助が蔵馬の感情を否定しないことぐらいわかってる。決定打を与える理由の一つは、動揺する幽助を肴にしたいから。

「俺の好きなヒトの話をしてるんだよ、幽助」
くっくっくっ、とひどく楽しそうに蔵馬は告げた。それは鈍感な友人への告白か牽制か。
「………ぶはぁっ」
盛大に酒を吹き出した幽助に、蔵馬と蛍子は、予想以上の反応に眉をひそめる。こちらに注目が行くのはまずい。
「幽助サイアク。早く拭くものとってきてよ」
素早く蛍子が指示を出した。幽助のバカっ。それを見た周りの酔っ払いは、ひとしきり笑うとそれぞれの座に戻った。もちろん、こちらを強い眼差しで睨んできた紅玉には気付かないフリ。視線が外されたことを確認して蛍子は狐と化かし合いを再開する。
「押して駄目なら何とやらをやってるのかも知れないけど、クロネコさんはちゃんと捉まえてないとどっかに行っちゃうよ?」
それだけ囁いて蛍子は戻ってきた幽助と床を拭き、耳をひっぱって座を変える。
フォローをしてくれるのかな。いい奥さんになるね、と蔵馬は一人心地。
ご高説ご最も。でも拒否の言葉ばかりしか聞けないんじゃ、いくら俺でも疲れるんだよね。触れることぐらい許して欲しい。
でも、そろそろかまいに行こうかな。仕返しはこの辺で切り上げて、じゃないと俺自身がつらいから。


「何ボケっとしてやがる」
かけられた声は、待ち望んだヒトのモノ。なのに、これ以上ない程反応が遅れた。
「…飛影?」
本物かと、目を疑ってしまう。
視線をやればフイ、とそっぽを向かれるが、それでも飛影は蔵馬の近くに腰をおろした。 それを見た蔵馬はとても、そう、とても嬉しそうに微笑んだ。
「飛影、これ食べます?おいしかったですよ」
料理を勧めて、いつも通りに。さっきまでの気まずさなんてすぐに忘れて。
蛍子が安心したように笑顔を見せたのがわかったけれど、それに答えるより今は目の前の小さな妖怪をかまい倒したい。
傍に来てくれてありがとう。
でも、あなたが感じたイライラの原因はちゃんと考えてもらいたいな、なんて蔵馬は贅沢なことを考えた。



ヒトに慣れない子猫には、ゆっくりと慣らしていってあげることが大切です。
上手くすれば、アナタだけに懐く自慢の猫になることでしょう。
だから辛抱強く、子猫のワガママも聞いてあげましょう。
こんなワガママを言われたら、大分懐いてきている証拠です。

なんでかまってくれないの?










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