欲しいものがあるんです。

どんな手段を使っても、欲しいものが。


三文芝居 1



私はきっと、物語のお姫さま役をするために生まれてきました。
召使がいる生活が当たり前で、護衛が付いている生活が当たり前です。
私の仕事はきれいなドレスを着てにっこりと笑顔で笑っていること。
お姉様は帰ってきた時に私が笑顔で出迎えてくれるだけで充分だと言ってくれます。
けれど私は、それでは物足りなくなってしまいました。
だから或る日、私は宮から抜け出したのです。
走って、走って、走って。広い敷地をもうすぐで抜けられる、という時、男の人に見つかってしまいました。
その人は私と同じ年くらいの軍人でした。
連れ戻される、と思いました。だって私はお姫さまなのですから。
けれどその人は。
私の手を引いて、高い塀の前。越えられるように四つんばいになってくれました。
靴を脱いで、その背に足をかけて、塀にまたがって見た世界は、私の知らない世界でした。風が気持ちよくて、私がいままでいた宮は少し小さくて、けれど木々や草花に囲まれていてとてもきれいでした。
軍人さんは身軽に塀を乗り越えて、私を急かすことなく外の世界で待っていてくれました。
塀から飛び降りて、その人に抱きとめてもらった瞬間。
私は恋に、落ちたのです。



それから、その人とはどうなったのですか?

なんて、物語だったら無邪気に聞いて、きっとお姫さまと軍人さんはしあわせに暮らしたんでしょう?と尋ねたことでしょう。
けれど私は物語の中のお姫さまではありませんので。

その人は私と向かい合って座るお姫さまの後ろに控えているのです。



ごめんなさいごめんなさい。
あなたの大切な人だと知ってしまっても、どうしても諦められないのです。

その人を下さい





≫ next








inserted by FC2 system