お姫様を助けた男の人は、褒美にお姫様と結婚できるんです。
お姫様は助けてくれた男の人を好きになって、男の人も綺麗で優しいお姫様の笑顔の虜になるんです。
王子様でも靴屋の息子でも、お姫様を助けたら結婚できるんです。

それなら、軍人さんでも大丈夫ですよね。


三文芝居 3



あるところに、桃色の髪をしたお姫様と夜色の髪をしたお姫様がいました。
桃色の髪のお姫様は、大事に大事に、お城の中で育てられました。
夜色の髪のお姫様は、大切に大切に、お城の中で育てられた後、外の世界にも行ってきました。
外の世界に行ったお姫様は、エメラルドの瞳を持つ少年を手に入れました。少年はたくさんの武器を使うことができたので、お姫様を守ることになりました。
桃色の髪のお姫様は、そのことを風の妖精の噂で知りました。
「私も外の世界へ行ってみたいわ。きれいなドレスもおいしいお菓子も、もううんざり!」
桃色の髪のお姫様は、こっそりお城を抜け出しました。
3回ごろごろと寝返りしても落ちないベッドから、シーツを取ってきて長いロープにしました。
まだお日様は頭の上でにこにこと笑っていましたが、お姫様はお月様が出てくるまで待ってはいられませんでした。
バルコニーにロープの端を結びつけると、地面に向かってロープを垂らしました。下を見ると、高くて少し怖くなってしまいました。けれどお姫様は言い聞かせます。
「私も夜色の髪のお姫様みたいに、外の世界を見に行くの!」
それから勇気を出してロープを下りました。途中で兵隊に見つかってしまうかと思いましたが、木の妖精が木の葉で隠してくれました。
「さあ、急ぎましょう!早くしないと、いなくなったのがわかってしまうわ」
お姫様は走り出しました。風の妖精がお姫様のドレスをふわりと持ち上げて助けてくれます。
お庭に植えられている木に隠れながら、お姫様はお城の塀を目指しました。
あともうちょっとでたどり着く、その時でした。
お姫様の目の前に、一人の男の子が現れたのです。
「きゃっ」
お姫様は驚いて、尻もちをついてしまいました。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
慌てて謝る男の子に、お姫様は「大丈夫」と言いました。
けれども本当は、心臓がどきどきして壊れそうでした。
どうしましょう!まだ外の世界に出ていないのに、見つかってしまいました!
お城に連れ戻されてしまう、とお姫様は心配でした。けれども男の子は、にっこり笑ってお姫様に言いました。
「お詫びに、お姫様をお手伝いします」
そういうと、塀の前で四つんばいになってくれました。
「どうぞ乗ってください。外の世界に出たいんでしょう?」
お姫様は喜んで、男の子の背中に足を乗せて塀に登りました。
男の子はお姫様が塀に登ると、すぐに後を追いかけました。そして先に外の世界に出てしまうと、お姫様が飛び降りられるように手を広げて待っていてくれるのです。
お姫様は飛び降りる前に、少しだけ、自分のお城を振り返りました。
大きく、広く感じていたお城は、小さくて可愛らしいお城でした。色々な花が咲いていて、とても綺麗なお城でした。
「さようなら!私のお城」
そう言ってお姫様は男の子の腕の中に飛び込みました。
受け止めてくれた男の子はにこにこと笑っていて、お姫様はその優しい男の子のことが大好きになりました。
それから先のことは、お姫様はよく覚えていません。綺麗な泉に足を浸して遊んでいたら、いつの間にか男の子はいなくなっていて、代わりにお姫様のお姉様がやって来ていたのです。
お姫様はお姉様に少しだけ怒られてしまいましたが、それからは少しだけ、外の世界にも出してもらえるようになりました。
外の世界に行くたびに、お姫様は男の子のことを思い出します。そして一生懸命探すのですが、あの男の子は見つからないのです。
「あの男の子は泉の妖精だったのかしら」
お姫様はそう思うようになりました。あんまり見つからないので、その男の子が人間ではないように思えたのです。
元気がなくなっているお姫様を心配したお姉様は、夜色の髪のお姫様をお城に招待しました。
「久しぶり。桃色の髪のお姫様。お姉様が、元気がないと心配していましたよ」
「ありがとう。夜色の髪のお姫様」
お礼を言った後、桃色の髪のお姫様は驚きました。
夜色の髪のお姫様の後ろに、あの男の子がいるではありませんか!
「その子はだあれ?」
「あぁ、紹介しなくてはね。彼は、私の軍人よ」
夜色の髪のお姫様は不思議なことをいいました。軍人とは、軍にいる人のことです。だから、お姫様のものではなくて、王様のもののはずです。
「夜色の髪のお姫様の?」
「私が外の世界に行った時に、連れて帰ってきたの。私を守る仕事をしているのよ」
軍人さんはにっこり笑ってお辞儀をしました。
そして夜色の髪のお姫様が見ていないところで、「秘密」と口の前に人差し指を立てるポーズをしました。
軍人さんは、やっぱりあの時の男の子です。
桃色の髪のお姫様は嬉しくなって、その日は夜色の髪のお姫様と一緒に、たくさんご飯を食べることができました。
けれども夜になると、軍人さんは夜色の髪のお姫様と一緒にお城へ帰ってしまいます。
お姫様は急に寂しくなって、ベッドの中で泣いてしまいました。
「軍人さんとずっと一緒にいたいわ」
お姫様は思いました。
バルコニーに出て、お月様に聞いてみました。
「お月様、お月様。軍人さんとずっと一緒にいたいの」
お月様はお姫様に言いました。
「私はここから見ていることしかできないよ」
お姫様は泣く泣くベッドに戻ると、どうすればいいか考えはじめました。
眠れないまま、お日様がお月様と交代する時間になりました。
お姫様は今度はお日様に言いました。
「お日様、お日様。軍人さんとずっと一緒にいたいの」
お日様はお姫様に言いました。
「私はここから見ていることしかできないよ」
お姫様は聞きました。
「どうすればいいかしら?」
「そうだね、本を読んでごらん。何かわかるかも知れないよ」
言われたとおり、お姫様はお城の図書室に行って本を読み始めました。
他のお姫様たちの物語を読んでいると、お姫様はあることに気づきました。
「お姫様を助けた男の人は、お姫様と結婚できるんだわ…」
そうです。お姫様を助けた王子様や靴屋の息子は、褒美にお姫様と結婚できるのです。
「軍人さんに、私を助けてもらったら」
そうしたら、軍人さんと結婚できるとお姫様は思いました。
しかし、どうしたら軍人さんに助けてもらえるでしょう。お姫様はまた困ってしまいました。
そこへ、お姉様が帰ってきました。
「ただいま、桃色の髪のお姫様」
「おかえりなさい、お姉様」
お姉様は少し疲れた顔をしていました。お姫様が理由を聞くと、お姉様は困った顔をして言いました。
「夜色の髪のお姫様が、敵に狙われているんだよ」
「まぁ!」
お姫様はとても驚きました。
「どうして夜色の髪のお姫様が?」
「それはね、桃色の髪のお姫様。夜色の髪のお姫様が、お兄様を手伝って色々なことを始めたからだよ。悪い人をこらしめるお手伝いをしているから、悪い人が夜色の髪のお姫様を邪魔に思って、殺してしまおうとしているんだよ」
「そんなの、ひどいです」
「そうだね。だから夜色の髪のお姫様を守るために、お姉様たちは頑張っているんだよ」
「夜色の髪のお姫様を守ってくださいね、お姉様」
「もちろんだとも。だからね、桃色の髪のお姫様。お前は夜色の髪のお姫様と仲良しだけれど、しばらくは一緒に遊んではいけないよ。お前まで悪い人から狙われてしまうからね」
「わかりましたわ、お姉様」
そう応えたお姫様でしたが、本当は胸がどきどきして仕方がありませんでした。
夜色の髪のお姫様と一緒に出かけて、悪い人たちに狙われて、そこを軍人さんに助けてもらえばいいと思ったのです。
お姫様は、これはいい考えだと思いました。
ちょっとぐらい、怪我をしたって構いません。バルコニーからお庭まで、ロープを伝って下りることができたのです。少しぐらい怖い思いをしたって平気だと思ったのです。
そこで桃色の髪のお姫様は、夜色の髪のお姫様に手紙を書きました。
「お姉様が外に出して下さらなくて、とても退屈しているの」
すぐに夜色の髪のお姫様から返事が届きました。
「私も危ないからとお城に閉じ込められていて、とても退屈しているの。よければ一緒に、馬に乗りに行かないかしら?」
この手紙にお姫様はよろこんで返事を書きました。
「なんて素敵なんでしょう!一緒に行きましょう」
それからお月様に4回おやすみなさいの挨拶をすると、もう約束の日です。
お姫様はまたこっそりお部屋を抜け出すと、お城の塀まで駆けました。
その前の日に隠しておいた小さな木の台を使って、塀を乗り越えます。本当は、また軍人さんがいないかと思っていたのですが、残念なことにそこには誰もいませんでした。
けれども上手くいけば、軍人さんとずっと一緒にいられるのです。
桃色の髪のお姫様は、夜色の髪のお姫様と待ち合わせた泉まで走りました。いつもは走ることなどないので、すぐに息が苦しくなってはーはー言いながら走りました。
泉の傍には、もう夜色のお姫様の馬車がありました。
「ようこそ、桃色の髪のお姫様」
「お待たせしました、夜色の髪のお姫様」
馬車にはお姫様と御者しかいませんでした。軍人さんはどこにいったのでしょう。
思わず探してしまった桃色の髪のお姫様に、夜色の髪のお姫様は笑って教えてくれました。
「彼は置いてきてしまったの。桃色の髪のお姫様と同じで、私にお城にいろってうるさいんだもの」
「まぁ」
「ふふ。もう行きましょう。はやくしないと見つかってしまうわ」
楽しそうな夜色の髪のお姫様。まるで桃色の髪のお姫様が、はじめてお城を抜け出したときのようです。
桃色の髪のお姫様は、軍人さんがいなかったことが残念でしたが、笑顔でうなづきました。
それから少し走ったときです。
ヒヒィーン!
急に馬が鳴いて、馬車が大きく揺れました。
「きゃぁ!」
すぐに馬車のドアが開けられ、悪い人たちが入ってきました。
顔がわからないように布を巻いて、手には銃や剣を持っています。
桃色の髪のお姫様は、怖くなってガタガタと震えてしまいました。
悪い人たちは何も言わずに、二人のお姫様を他の馬車に乗せました。
そして馬車はどこかに向かって走り出します。桃色の髪のお姫様は、夜色の髪のお姫様のドレスをぎゅっと掴んで、「助けて!」と叫びそうになるのを必死に我慢していました。
夜色の髪のお姫様は、静かに桃色の髪のお姫様を抱き寄せました。
しばらく走ると、馬車は止まりました。腕を掴まれて馬車から下ろされます。そんな乱暴な下ろし方は初めてです。
目の前には、汚らしい家が一軒ありました。その中に入り、お姫様たちはある部屋に閉じ込められました。
汚くて、カビくさくて、窓もない部屋でした。扉には小さな窓がありましたが、そこには鉄格子が嵌っています。
桃色の髪のお姫様は、怖いと思いました。悪い人たちは、お姫様たちを閉じ込めてどうするつもりなんでしょう。
でも、桃色の髪のお姫様は信じていました。

きっと軍人さんが助けにきてくれる。そして、助けてもらったお姫様とずっと一緒に、幸せに暮らすのよ。



そうして物語は「めでたしめでたし」で終わるの。
だから早く助けに来て。ルルーシュを助けに来てくれるんだってわかってる。それでもいいの。私もそこにいるから、ユーフェミアもそこにいるから、一緒でいいから私も助けてください。
そうしたら。
私を助けてくれたあなたを騎士にして、恋に落としてみせるから。





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