返品不可 前


ふとカレンダーを見たら、11月5日だった。

「あと1ヶ月か」
………いま、誰が喋った?僕か?僕が言ったのか!?あぁそうだよあと1ヶ月だよ!ルルーシュの誕生日までっ!!
「さいあく」
だってルルーシュがゼロかもしれないのに。あんな、ルールを無視してたくさんの人を殺すゼロかもしれないのに。それなのに僕はカレンダーを見ただけでルルーシュのことを思い出さずにはいられないんだ。
なんだそれ。そんなのおかしい。ルルーシュは僕の大切な友達だけどゼロは違う。ゼロは敵だ。ゼロさえいなければ。ゼロが僕の邪魔をするから。
「……寝よう」
最近ゼロとルルーシュのことばかり考えてる。ルルーシュがゼロなんて、そんなわけないって必死に信じようと思うのに信じきれない。だってきっと、ゼロはルルーシュだ。
「寝るぞっ」
考えるのを放棄してベッドに飛び込んだ。ランスロットのデヴァイザーになってから住み始めたこの部屋のベッドはスプリングがよくきいている。こんなふかふかなベッドじゃなくて、平たい布団で眠りたい。
明日は軍に行かなければ。ゼロが出張ってこないことを祈って瞼を閉じた。




ルルーシュの誕生日まであと3週間。

今年のルルーシュの誕生日は土曜らしい。なんでこのカレンダーは先月と翌月の日程まで載っているんだろう。今月しか載っていなければ、5日が土曜だなんて知らずにすんだのに。
「はぁ…」
なんでカレンダーを前にため息なんてつかなきゃいけないんだ。カレンダーに斜線を引く癖が悪い。でもこうして一日の終わりに斜線を引かないと日付の感覚がなくなるから。

そういえば、日付の感覚がなくなると言った僕に斜線を引けばいいと教えてくれたのはルルーシュだった。カレンダーがないと言った帰り道、一緒にお店に寄ってカレンダーを選んだんだ。目の前にある、猫の写真の入ったカレンダー。斜線を引くペンも一緒に買った。ルルーシュの目と同じ色したカラーペン。それで次の日には今日は何日だ?って聞いてきて、僕がきちんと斜線を引いたかチェックしたんだ。
今日も生きてた、って思いながら11月14日のマスに斜線を引いた。
ペンをカレンダーに引っ掛けてユニットバスへ。蛇口を捻ればにょろりと伸びた銀色からお湯が流れてくる。シャワーだけじゃものたりなくて、ユニットバスに無理やりお湯をためて入るのが僕の毎日。足を伸ばせるお風呂に入りたいな。ユニットバスに浸かるには無理な体勢をしなくちゃいけなくて、望むようにはくつろげない。
髪は適当にタオルで拭いて、ふかふかのベッドへ。月明かりの差し込む天井を見上げてば、カチコチと優しい音が聞こえる。テーブルの上に鎮座する目覚まし時計。
あれは、僕の誕生日にナナリーがくれたものだ。

あの、7月10日は目を閉じればすぐに浮かんでくる。
ルルーシュのプレゼントは彼の手料理で、ナナリーと僕と3人でテーブルを囲んで過ごした。とても幸せだった。デザートのプリンを食べ終わったあと、ナナリーがプレゼントしてくれたのが、この時計。「スザクさんが幸せな夢を見れるように」と言ってくれた理由を、僕は最初、わからなかった。
思わず首をかしげてしまったら、ルルーシュが「動物の子どもは時計の音を聞くと安心して眠るらしいな。母親の心臓の音だと勘違いして」と言ってのけた。それって僕が動物の子どもと同じってこと?と思ったのだけれど、要するにナナリーは僕が悪夢にうなされないように祈ってくれたということで。きちんと意味を理解できた僕がナナリーにお礼を言えば、ルルーシュはひどく満足気に頷いた。
後からルルーシュに、ナナリーが咲世子さんと一緒に時計売り場を歩き渡って、一番優しい音の時計を探したんだと聞いたときは胸が熱くなった。
生憎と、僕は悪夢にうなされるような神経は持ち合わせていなかったのだけれど、それでも昔のことを思い出して不安定な夜は、時計の音を頼りに目を閉じた。そうすると、不思議と眠ってしまうんだ。ルルーシュにそう言うと、「ナナリーの願いが込められてるんだから当然だろ」と本気とも冗談ともつかない顔で笑われた。その後に小さく、「ナナリーのおまじないが効かなかったら電話しろ。10分くらいなら付き合ってやる」と早口で告げられたのには、僕が笑ってしまった。だってほっぺを赤くして言うルルーシュが可愛かったから。
カチ コチ
ナナリーのおまじないは強力で、僕はそれ以上考えられずに眠ってしまった。




ルルーシュの誕生日まであと2週間。

きっちり軍服をきてさぁ家を出るぞ、という格好でカレンダーとにらめっこ。あぁ、なんでこんなにも気になってしまうんだろう。いや、これは義理というやつだ。だって僕の誕生日は祝ってもらったんだし。お返しはしなければいけない。たとえそれがゼロであろうとも?いやでもまだ断定はできない。
でもそうやって、一つずつルルーシュがゼロでない言い訳を探して、見つからなくて、今日もまた茶色の軍服を着て大学へ向かう。せめてあの黒い制服を着て学校へ行って、ルルーシュの顔を見れたら。そうしたらやっぱり違うって信じられるのに。
想像だけだと悪いほうに引っ張られて仕方がない。そのくせルルーシュに連絡しようとケータイに目を向ければ今日の日付が目に入ってそこから先に進めない。
「はぁ……」
我ながら似合わないため息をついてロッカー内の棚にケータイを放る。
白いパイロットスーツはいつもと同じはずなのに、肌にまとわりつく感じがした。

「――――――――大丈夫?スザクくん」
眉を八の字にしたセシルさんのバックには、乾いた音のBGM。
「あははははは!!至上最低記録おーめーでーとーおーぅ!!」
目が笑ってないですロイドさん。眼鏡がライトを反射して怖いですロイドさん。
まるっきりおめでたくない数値に、プリン休憩!と一声かけてくるりと回って去っていく。
この間に立て直さないとまずい。まずいのは、わかっているんだけど。
きっと、無理だ。
思わず出てしまったため息に、セシルさんの小さく笑う声。
「本当に、スザクくんのメンタルとランスロットの動きはリンクしているわね」
「え……?」
「何か気になって仕方ないって顔してるわ。ランスロットの不調なんて目じゃないくらいの心配事なのね」
怒る風でもなく、セシルさんは僕の状況を的確に指摘してくる。えぇもう、その通りです。認めたくないことに!
とっとと吐け、なんていう雰囲気でもないのに、セシルさんのあの独特の空気にやられてしまったのか、気づいたら僕は誕生日のことを話し出していた。

「つまり、お友達の誕生日にプレゼントをあげようかどうしようか、悩んでいるのかしら?」
ことり、と首を傾げるセシルさん。僕は頭を抱えたい。馬鹿だ!僕はルルーシュが言うまでもなく馬鹿だ!!
でもルルがゼロかもしれないってトコを外すとそれしかないんだから、仕方ないじゃないか!!
「そうねぇ。確かにスザクくんの年頃だと、今更プレゼントなんて気恥ずかしいのかしら?」
「…………そうかもしれません。気になるんですけど、どうすればいいのか」
もう不調の理由はこれでいくしかない!なんかもう自分が何に悩んでいたのかわからなくなってきたよ…。
「スザクくんが悩んでいるところは、どこなのかしらね」
「え?」
「まず、スザクくんはお友達の誕生日がもうすぐだって気づいたのよね」
「はい」
「そして、お祝いをしたいと思った?」
「どうしようかと思っています」
「どうして?」
「え…」
「おめでとう、って一言かけるだけでも十分よね。でもスザクくんは悩んでいる」
そうだ。別に悩む必要なんてないはずなんだ。
「誕生日がもうすぐって思って、ずっと気になっているのかしら?」
「そう、です」
「素敵ね」
「はい?」
「その人のために何かしたいなって思うから気になっちゃうんじゃないかしら」
「そう…でしょうか」
「私が友達の誕生日に気づいたら、その子が何を欲しいって言ってたか、何が好きか、一生懸命思い出すわ。それが見つかったら買いにいくし、見つからなかったらもらって喜びそうなものを考えるの。プレゼントって、その人のことを考えて選ぶから難しいし楽しくて、それがわかるからこそ、もらって幸せな気持ちになるんだと思うわ」

殺風景な部屋の中、毎日毎日時計は僕を寝かせてくれて、遅刻しないように起こしてくれる。カレンダーは明日の日付だけじゃなくて、今日も一日生きていたと教えてくれる。

「悩むくらいなら行動しなさい。スザクくんには、プレゼントをどうしようか、なんて頭で考えるよりも、外に出てプレゼントを探す方が似合っているわ」
ね?と笑顔で手元の端末を操作して、僕を早退させてしまう。
敵わないなぁ。
「いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
ルルーシュが欲しいものってなんだろう。最近ルルーシュと会っていない。何を話したっけ?覚えているのは、ルルーシュの前でゼロを批判したことばっかりだ。
欲しいものなんて決まってる。絶対に皇帝の首とナナリーに優しい世界。真剣にそういう姿が想像できて、笑ってしまった。僕のお財布じゃ難しいなぁ。
それでも色んなお店を見てみたけれど、やっぱりルルーシュの欲しいものはどこにも売っていなかった。





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