俺の騎士になりたかったと言うその口唇は、俺を拒む言葉を平気で言うものと同じだと、わかっているのに。
俺の身体に廻る腕は、いつも俺を引き上げてくれるけれど、俺を撃墜しようとナイトメアフレームを動かすものと同じだとわかっているのに。
それでも、震えるこの手はスザクの腕を掴んでしまった。


主よ、許したまえ 3



「っ…俺、は」
「うん」
「俺は、お前に、ナナリーの騎士になって欲しかったよ」
「それは、光栄だね。君の一番大切なものを守らせてくれようとしたんだ」

そうだ。お前だから、任せられると思ったんだ。
血を浴びるのは俺だけでいいんだ。スザクも、ナナリーも、血を見る必要だってないんだ。

「でも僕は、ルルーシュを守りたい」

同じ声で俺を拒んだくせに。
そして同じように、俺はお前、白兜のパイロットの存在を拒んだのに。
それなのにスザクの言葉に俺は狂喜した。スザクが俺の肩に顔を埋めていて良かったと思う。こんな顔、見せられない。こんな、仮面の崩れた顔なんて。
嬉しかった。本当に。けれどもう少ししたらいつものポーカーフェイスに戻るから、それで、お仕舞いにしようと思っていた。嬉しいよと一言告げて、ナナリーもそう言ってたと返して、それで、自分の感情なんてどうにでも誤魔化せると思ったんだ。



「ルルーシュ。僕は、ルルーシュが好きだよ」



その声は、初めて聞く声だった。



「え」
「友達や、家族みたいな関係としてじゃなくてね、恋愛対象として、ルルーシュが好きだよ。意味、わかる?」

頭の中が真っ白になって何も考えられない。
チェスみたいにどうして次の手が何も思い浮かばないんだ。
スザクの次の一手だって、キングを倒す手立てだって、自分の手持ちの駒の数だって、何もわからない。

「ルル?あー…こっち、向いてね」

くるんっと簡単に俺の身体は反転して、月明かりを正面から浴びる羽目になる。

「信じられないなら何回でも言うよ?それともキスでもしたら、信じてくれる?」

こつん、とスザクの額と俺のそれが繋がる。
近づいた翠に、相変わらず、綺麗な色だと思った。ひまわりの葉より鮮やかな色。

「ルル、返事ちょうだい?」

返事、何の、返事だろう。俺の騎士になりたかったこと?好きと言ったことに対して?

「お前は、ユフィの騎士で、俺は男だ」
「いくらルルが美人で女の子の服が似合っても、性別ぐらいわかってるよ」
「お前は、ユフィの騎士だろう」
「予定、だよ。ね、ルル。返事は?僕のこと、嫌いじゃないでしょ?」

スザクの言うとおりだ。嫌いじゃない。嫌いじゃないから困ってるんだ。
お前が欲しいから困ってるんだ。
この手を取らないお前に、困ってるんだろう。

「だからね、ルルの返事は僕を恋愛対象として“好き”か“わからない”かのどっちかなんだよ。ね、どっち?」

どっちだろう?もう考えるのが面倒になってくる。だってこの腕の中はこんなにも温かだ。
ベッドの中で一人で丸まっているより余程、温かい。

「わからない」
「ルル、瞼落ちてきてるね。眠くなっちゃった?」
「お前が、あったかいから」

そう告げれば、笑ったのか触れている部分から震えが伝わった。

「ね、ルル。こんなこと、ルルは僕以外の誰かにやらせる?」
「誰が、やらせるか」
「嬉しいな」

愉快そうな声に良かったなと思う。
その声は、俺を否定して俺が消そうとした声なのに。
虫が良すぎる自分が嫌になる。

「どうすればいいか、わからないんだ」
「何が?」

気づいたら口にしてしまっていた言葉に、スザクは律儀に返事をする。それほど大きな声でもなかったのに、この距離では吐息すら耳に入るから仕方ないのか。

「お前が欲しいと何度も言ったのに、お前は俺を拒んだのに、今お前は俺の前にいるから」
「……どういうこと?」

月が、翳る。
月の魔力なんて信じない。月明かりに惑わされたわけでもないのに。
言葉が止まらない。

「俺が、ゼロだ」

言ってしまった。そう理解した瞬間、暗闇で互いの顔なんて見えるはずもないのに、俺は瞳を閉ざして全てを拒んだ。





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