真っ暗だ。
告白した嘘を取り返せるわけもなく、かといって弁明の余地もない。
俺の正義はスザクに受け入れられなかった。いつだって伸ばしたこの手を掴んでくれた手。俺のものより節くれだったスザクのあの手に拒否された瞬間が、忘れられない。
それでもどうしてもスザクが欲しくて、仕方なくて、みっともなく何度も手を伸ばした。


主よ、許したまえ 4



瞼の裏側に光を感じた。雲が晴れたのだろう。
スザクは何も言わない。けれど、俺の身体に廻した手を放しもしない。
何でもいいから、何か言って欲しかった。幕引きの言葉がなければ俺は何も出来ないじゃないか。

「――――っ!」

焦れて目を開けてしまったのは、俺。

「何か、言えよっ」
「…何かって、何」
「っ色々あるだろう!?」
「うん。色々あるんだけど、でも………。うん、そうだな。僕は、ゼロをやっていた君を邪魔だと思ってて、たくさん、攻撃した」
「そんなこと、俺だって同じだ」
「うん。あのね、ルル。さっきルルは僕に怪我がなくて良かったって言ってくれたけど、僕も同じなんだ。僕がルルを傷つけてなくて良かったって、思ったよ」

身体的には、ってだけだけど。
最後は小さく、それも俺から視線を逸らして言う。

「別に、どこも傷ついてなんかない」
「ルルは僕にはウソツキだよね」

嘘をつきあっていたのはお互い様だ。言葉で傷つけあったのだって、きっとそう。

「困ったなぁ」
「何が」
「だって、僕はゼロがルルだってわかっちゃったんだよ?」
「俺だって、お前が白兜のパイロットだって知ってしまった」
「…白兜?」
「お前のナイトメアフレーム。何なんだアレは」
「白兜……えっと、ランスロットって名前なんだけど」
「あんな反則機体、白兜で充分だ」

俺の言葉にスザクは肩を震わせている。精一杯こらえているようだが、笑い声が漏れてるぞ。
緊張感のなさに、いつものような会話に、気づいたら肩の力が抜けていた。
月の光であたりは明るい。真っ暗な世界はまだ先のようだ。

「あーっもう。笑わせないでよ。これでも真剣に悩んでるんだから」
「だから、何がと聞いてるだろう」

「どうすれば、ルルの騎士にしてもらえるかなって」



どうすれば、ルルの騎士にしてもらえるかなって?
頭の中でリピートされる言葉に理解が追いつかない。俺は、確かにスザクに正体を明かしたよな?

「あと、ルルが僕の告白に返事をするの、忘れてないかなって」



「はぁぁぁあ!?」



落ち着け、冷静になるんだ。 確かに、スザクに告白された。スザクのことは嫌いじゃない。うん。そうだ、それで、俺がゼロだと伝えて、でもスザクは俺の騎士になりたいと。

「…大丈夫か?スザク。俺があまりに突拍子もなく言ったから、どこか悪くしたんじゃないか?」

スザクの胸元を掴んでしまっていた手を引き剥がして肩にやり、ぽん、と叩いてみる。

「ルルって知らずにゼロのこと拒否して攻撃したのは、ルルも同じこと僕にしたからお互い水に流そうってことになったんだよね?」
「…わかってるなら、いい」
「その上で、僕は返事を聞いてるんだけど」

「告白の返事なら、多分好きだけどわからない。騎士の話しは、ユフィがお前を騎士にと宣言しただろう」

スザクのことは、多分好きだ。俺の特別だから。でもわからないことにしておく。スザクは敵だから。
けれどスザクは、だから困っているんだと繰り返す。
ふうっ、と息を吐く音。身長は大して変わらないから、翠が間近にある。映っているのは、俺の、黒。



「枢木スザクは、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇太子殿下の騎士になりたいのです」



あぁ、それは困った。
嬉しくて、拒めなくて、困ってしまう。だって欲しかったものが目の前にあるんだ。
本当に、困る。





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