夢を見た。とても幸せな夢だ。
ナナリーがいて、咲世子さんがいて、俺がいて、そしてスザクがいた。
俺はスザクに騎士の証を渡して、スザクがそれを受け取るんだ。
あぁ、なんて幸せな夢。証を持たない俺には過ぎた夢。
現実の冷たさを知るからこそ、いつまでも浸かっていたいほど暖かい。

けれど朝は容赦なくやってきて、俺の頬には水が伝った跡だけが残っていた。


主よ、許したまえ 6



「おはようございます、お兄様」
「おはようございます」
「おはよう、ナナリー、咲世子さん」

幸せな食卓。この時間がずっと続くように、俺は、歩き続けてみせる。

「お兄様、もしかして、昨夜スザクさんがいらっしゃいませんでしたか?」
「…スザク?」
「はい、窓ガラスに何か当たる音がして、起きてしまったんです。そうしたら、話し声がしたので」
「来た、のか?」
「違いましたか?」

昨夜、昨夜は確か、ナナリーをベッドに運んで、俺もはやく眠ろうと思ったんだ。
月がとても明るかった。
携帯が鳴っていて、気づかない振りをした。
そうしたら、窓に。

「―――――あぁっ!!」
「お兄様?!」

ゆ、夢だと思っていた!いや、あまりに都合の良い夢だったし、確かに一部は夢だった。けれど残り一部は、スザクが騎士になったのは。

「…夢じゃなかったんだ」
「もう、お兄様ったら。寝ぼけてらしたんですか?」
「あ、あぁ。すまない」
「どんなご用件だったのか聞いても?」

優秀なメイドはお茶を淹れて参りますと一礼し、扉を閉めた。



「……スザクが、俺の騎士になった」

二人きりになった世界で、ようやく紡いだ言葉は俺らしくもなく小さな音。
口に出してもまだ実感がわかない。現実を疑ってしまうのは、嬉しすぎるからか、はたまたあまりにも非現実的なものだからか。

「本当、ですか?」
「たぶん」
「――っ!良かった、良かったです!」

昨日の今日だ。騎士の話しをしたのは。俺だってまだ信じきれない。ナナリーも同じようで、一拍以上置いてから、嬉しそうに手を合わせた。
現実をつけ加えて。

「ユフィお姉様のことは心配ですが、それでも、私はスザクさんがお兄様の騎士になって下さって嬉しいです」

ずるいですね、と小さく舌を出してみせる。
俺もずるいよ。ナナリーよりももっとずっと。
だってこんなにも嬉しい。

ただ、問題はこれからだ。




「おはよう、ルルーシュ」
「C.C.!?」

朝食を終え、部屋に戻ってみれば昨夜はいなかったC.C.が帰ってきていた。

「昨日はどうしたんだ?」
「野暮なことを。若い二人に気を使ってやったというのに」
「……どこで、見ていた?」
「何のことだ?駒が増えてよかったじゃないか。素直に喜んでおけ」

コイツとの言い争いはいつも不利だ。
溜息一つでやりすごし、本来の目的でったノートパソコンに向かう。

「騎士殿の情報か?」
「式がいつかわかれば、なんとでもなるだろ」
「式?」
「ユーフェミアがスザクを正式に騎士にする、お披露目を兼ねた儀式だよ」
「ふぅん。まだるっこしいんだな。式まで待つのか」
「どういうことだ?」
「ナイトは一足飛びなんだろう?そうやって悠長に構えている余裕があるといいな」
「何が、言いたい?」
「さぁな。とっとと行っておいで、ルルーシュ」

魔女はにやりと笑んでベッドに転がった。




「おーっすルルーシュ!見たか!?昨日のニュース!」

不本意極まりない見送りの言葉にクラブハウスを出れば、すぐにリヴァルに捕まった。

「知ってる」
「やるよなぁ皇女様。全国放送だぜ?」
「本国は今頃大騒ぎだろうな」
「ま、俺らには関係ないけどね〜。にしても、あのナイトメアフレーム、すごかったよなぁ!ルルーシュが文化祭のとき乗るのとは全然違うし!」
「俺が乗るのは旧い型だからな」
「アレはアレで年代モノってカンジで良いって!」
「別にひがんでなんかないぞ?それより、俺は会長がスザクの騎士就任パーティをどの程度の規模でやるのかが気がかりだ」
「あ〜絶対やるよな!俺だって祝ってやりたいし。生徒会だけってわけには行かないよな〜」
「せめて立食パーティレベルにしてもらわないと、予算が心配だ」
「あははっ流石ルルーシュ!」

どうせ今日は学校に来れないだろう騎士を肴に笑い合う。
クラスに行けば騎士の話題で持ちきりだろうし、生徒会に行けばパーティの企画が待っているんだ。
今から、慣れておかないと。

もし、夢に惑わされることがなければ。魔女の言葉を信じていれば。そうすれば、少しは違う夕焼けになったのだろうか。





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