35.4℃の熱 5


ナンバーズ初の騎士の登校は明日。丁度、報道から1週間後。
ディートハルトの情報網でそのことを把握しているカレンは、現在クラブハウスのテラスで皇子と姫君とアフタヌーンティー中。
思いを馳せるのは憎い相手。愛憎模様というけれど、憎しみの反対は愛ではないとカレンは思う。愛の反対は、憎しみかもしれないけれど。 その相手は今頃オヒメサマと一緒だろうか。大切なものが何かもわからないような愚か者は。
カレンの手にはあやとり。東京タワーを作ってみせる相手は、可愛いナナリー。
半分に折れた東京タワーを見せなくていいことに喜びを覚えるのはエゴだろうか。
いくつかの形を見せて、紅茶を飲んで、心地よい沈黙が降りたとき、ふと、ナナリーが口を開いた。

「お兄様。スザクさんとは、もう一緒に遊べませんね」
なんてことないように、明日の天気を確認するかのように、自然な言葉。明日スザクが登校することなんて、知らないはずなのに。
「ナナ、リー?」
パソコンから視線を上げた兄の顔は、衝撃に支配されていた。
見えない妹はそんなことなど気にもせず、先を続ける。

「だからお兄様、私を置いていかないで下さいね」

「ナナリー」
哀しそうな顔な、ルルーシュの顔を見てしまったカレンが可哀想だ。
それはもうスザクと遊べないというナナリーへのもの?それとも妹を置いていくつもりだったことを知られたため?それとも、スザクという存在を切り捨てられたことへ?
騎士も守るべき姫もここにいるというのに。

「カレンさん、お兄様が私を置いていかないように、見張っていて下さいませんか?」
この盲目の少女は、何を感じ取っているのだろう。
この、強い少女は。
「もちろんよ」
「約束、して下さい」
立てられた小指に、絡められる小指。なんて懐かしく、重い約束。
「破っちゃ、ダメですよ」
「破らないわ、約束したもの」
言葉の裏側に隠されてるいものを知っている。
約束の裏側に隠されてるいものをわかってる。

カレンはルルーシュに見えない角度でうっそうと微笑む。
さぁ、どうしましょうか?
ルルーシュを傷つけた、愚か者は。






ナンバーズ初の騎士候は、厳しい顔で技術部の廊下をつき進んでいた。
先ほどから繰り返される光景に吐き気が収まらない。
下げられる頭頭頭あたまあたまっ!!
「怖い顔だねぇ」
視界が開けた途端、かけられた声に懐かしさすら覚える。変わらない口調がこれほど自分を安心させるなんて、夢にも思わなかったのに。
「ロイドさん」
白い騎士の前に立つ灰色の錬金術師。
「騎士就任おーめーでーとーぉ」
にやにやと人の悪い顔。
その言葉になんとも返答の仕様が無い。
望んでなかったことを望まれて、この地位。
「もっと嬉しそうな顔したらぁ?折角君の願いが叶う位置につけたんだからさぁ」
「どういう、ことですか?」
「だぁって君、ヒトゴロシは嫌いなくせに現体制に納得してないんでしょぉ?だとしたらさ、黒の騎士団がコーネリア殿下に討伐されたら、この国はユーフェミア皇女のものになるわけだから?君にとって明確な“悪”で“殺しても構わない”黒の騎士団さえ殺しちゃえば、その後のニホンは君のものも同然じゃない?」
おーめーでーとーぉ。
もう一度ロイドは笑った。
「でもね、何事にも対価は必要なんだよ。知ってたぁ?よくあるじゃない。崖っぷち、アナタの大切な人が二人、今にも落ちそうに端に掴まっています。アナタはどちらを助けますか?」
心理テストともいえないありがちな質問。
「要するにさ、一人選ぶ代わりに一人見捨てろってことなんだよ」
君はもう選んじゃったから、もう誰かを見捨ててるんだよ。
謎かけのようなロイドの言葉。
とても賛成できるものではないその言葉に、けれどスザクの心を支配するのは、得体の知れない恐怖。
いや、得体が知れないからこその恐怖か。
「どういう、ことですか」
「それ、もう2回目だよぉ?」
わからないなら別にいいよ。
ロイドはそう言って、見捨てた。
「ランスロットは君にあげるよ。セシルくんもね」
「!?」
「僕はこれから新しい機体を開発するんだ。っていうか、もう作ってるんだけどぉ。あぁ、安心してくれていいよ?今までと体制は変わらないから。ただ、僕が前よりランスロットに関わらなくなるってだけ」
「なんで、いきなり」
「コーネリア殿下が予算くれたんだよぉ。ランスロットの量産が目的じゃない?僕はランスロットのコピーなんて作る気ないけどねぇ」

「何が、目的ですか」
「それは僕が聞きたいよ。ねぇ、君は何が目的でブリタニアについたの?」
答えられない?それとももうわからなくなっちゃった?
強張る白のナイトの顔とは対照的に、黒のナイトの笑みはますます深まるばかり。
まぁ僕は、君の願いなんてどうでもいいことなんだけど。
願いを叶えたいと思う相手は一人だけ。

さぁ、どうやって傷つけてあげようか?
僕の王様を傷つけた、仕返しは基本の3倍返しじゃもの足りない。





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