危険極まりない彼女との5のお題 ... Title by MEMO

01.約束破ったら全殺しって、それ凶悪すぎですよ。
02.最近では友人たちから子分になったのか、と訊かれるようになりました。
03.浮気したら彼女との関係がどうこうどころか、
  自分と現世との関係が勢いよく抹消されますから……。

04.首にキスマークどころか昨日彼女に絞められた痕がありますが、何か?
05.できれば、プレゼントは手渡しでください。力の限りに投げ付けるんじゃなくて。
























01.約束破ったら全殺しって、それ凶悪すぎですよ。


「ルル、今日は軍の方が早く終わりそうなんだ」
「だから?」
「ルールー。意地悪、しないでよ」

軍が早く終わる日は、ルルの住まいで夕食をもらう。
再会してから習慣になったこれは、ルルとの関係が友人じゃなくなってからも続いていて。
ナナリーを交えて、咲世子さんの作った美味しい食事をとるのは、ルルがとても楽しみにしていることを知っている。
なのに可愛くないこたえを返すのは、ここ暫く忙しくて食卓をともにできなかったから。
可愛い可愛い、僕の彼女。だから折れるのはいつも僕の方。

「ルル、お願い。軍が終わってから行ってもいい?」

少しかがんで、ルルの綺麗な紫色の目を見つめてお願いする。
そうすれば仕方ないなって表情をつくって許してくれると知っているから。

「8時までしか待たないからな」
「うん、ありがとう!」
「人参が出たらおまえが食べろ」
「もちろんだよ」
「…とっとと行ってこい」
「はいはい、行ってきます」

ルルの長く伸ばした髪を一房さらってさよならの挨拶。
真っ赤になったルルと夕食の約束に、僕は幸せな気持ちで駆け出した。

の、に!!

「ロイドさん!今日は早く終わるって言ったじゃないですか!?」
「あ〜れ〜ぇ?そんなこと言ったぁ?」
「言いました!」
「だって君、なぁんか調子いいみたいだしぃ」
「そんな理由でテスト増やさないで下さい!!」
「ウルサイなぁ。大体、まだ8時じゃない。あと1時間もあれば終わるよぉ」

もう8時です連絡も入れられないまま約束の時間になったんです!
ルルはとことん有言実行。クラブハウスでは、ナナリーに僕から連絡がきたとか言って夕食が始まっているにちがいない。

「あぁ。カノジョと約束があったぁ?」
「…その通りです」
「あはは。ざぁんねんでしたぁ」
「残念どころじゃないです。明日、僕は確実に使い物になりませんから」
「あは〜。カノジョに振られちゃう?」

「全殺しにされます」

このままランスロットに乗ってルルのとこまで行きたいな。
手当たり次第に物を投げて、しまいには銃まで持ち出す彼女だけど。
近くに何もなくなったらごめんってたくさん謝って、それで冷たくなった料理を温め直すんだ。

「約束破ったら全殺しって、凶悪だねぇ」

せめて半殺しにしてもらえるようにこのテストで最後にしてあげるよぉ、なんて喰えない笑みで告げられる。
目を閉じて集中する直前に浮かんだのは、僕のお姫様。
噛み締めて真っ赤になった唇が時折罵倒の言葉を吐いて、危なっかしくて包丁なんて持たせられない白い手が物を投げて、大きな目が不安と安堵でぐちゃぐちゃになりながら涙を堪えてた。

あぁもう、なんて凶悪なんだろう!


[ Update : 2008.04.18 ]
























02.最近では友人たちから子分になったのか、と訊かれるようになりました。


「スザク」
「はい、ルル」

書面から視線を離さないまま、真っ白な手のひらだけを向けられて書類を渡す。

「スザク」
「ルルは外出ちゃダメだよ」

窓の外を指差しくいっとシャープな顎を反らされて、不審者を捕まえに行く。

「スザク」
「ダメだよルル。一人でそんな重いの持っちゃ」
「スザク」
「ルル。今行く」
「スザク」
「スザク」



「なぁ…スザクとルルって、付き合ってるんだよな?」
「そうだよ?」
「こう言っちゃ悪いんだけどさ。なんかさ、彼氏っていうより、子分扱いじゃない?」
「そうかなぁ」

まぁ、確かに彼女は僕を指先一つで動かすことができるのだけど。

「スザクっ!」
「じゃ、リヴァル。ルルが呼んでるから」
「おーまたな。お姫様によろしく〜」



「おまたせ、ルル」
「べつに待ってない」
「うん」
「……………日曜」
「うん?」
「日曜、は」
「日曜?」
「―――――――っ!日曜は!暇かと聞いてるんだ!!」

週末の予定を聞くのにも真っ赤になるぐらい恥ずかしがって、仕舞には掴み掛かってくるお姫様。

「暇だよ」
「な、ら」
「うん。デート、してくれる?」

右を見て、左を見て。僕を見てはくれないのかな?
視線は宙を彷徨ったまま、たっぷり5秒は間を開けて、ルルはこくん、と頷いた。



友達からは子分になったのかと訊かれるような関係ですが、それは僕が甘やかしたいからそう見えるだけで。
子分上等。たくさんたくさん甘やかして、僕なしの毎日を考えられなくさせてあげる。


[ Update : 2008.04.26 ]
























03.浮気したら彼女との関係がどうこうどころか、自分と現世との関係が勢いよく抹消されますから……。


「なぁ、視線痛くない?」
「見られてる、ね」
「誰が一番最初に声かけてくると思う?」
「えぇ!?」
「じょーだんだよ。見られてる理由の3分の1は、後ろの荷物だろーし」
「女の人の買い物って、すごいんだね」
「あ〜はやく戻ってこないかなー」

買い物日和の土曜日。生徒会メンバーはショッピングモールに繰り出しています。
正確には、女性陣の買い物の荷物持ちに来ています。
カレンさんとニーナは都合により欠席。ルルはナナリーに似合いそうなワンピースがあったのよ、との会長のお言葉で参加。その段階で偶々休みをもらっていた僕が欠席するはずもなく、結果、リヴァルと二人で荷物持ち。まんまとルルを着せ替え人形にすることに成功した会長とシャーリーが満面の笑みで渡してくる紙袋の山を抱えているわけです。
ルル達はまだお買物中だけど、僕らはベンチで一休み。いかにも荷物持ちですって男が二人でぐったりしているせいか、道行く人々の視線が痛い。

「軍の訓練よりハードな気がする」
「体力だけじゃなくて、精神的っつーの?なんか疲れるよな〜」
「リヴァル、喉乾かない?」
「ジャ〜ンケ〜ン」

ぽん!

ごめんリヴァル。軍人って動体視力いいんだ。ルルはお前だけだとか言うけど。
だからルルは絶対ジャンケンで勝負しない。僕がコインを投げて、ルルが当てるのがいつものパターン。

「ごめんね。お茶お願い」
「あ〜ついてねぇ」

小銭を渡して見送った。
ベンチの後ろには中々立派な木が植えられていて、見上げれば深緑の間から空が覗ける。時たま通る風は爽やかで、心地よい。
今度はルルと二人で出掛けたいな。

なんて、ささやかな望みを壊すのは石畳に響くヒールの音。
視線を前に戻せば、大学生ぐらいの女の人が二人。

「あのぉ」

恥じらうように互いを見ながら笑顔で声をかける茶色と金色。
の、向こう。

ヤバいヤバいヤバいヤバい!!

両手に紙袋を持った豪奢な金の巻髪とさらさらと流れるこげ茶の髪を従えて、光の加減で紫ともとれる黒の絹糸の持ち主が笑っている。
薄くお化粧された唇はいつもより艶やかで、それが弧を描いているのは目を奪われるほど綺麗なのだけれど。アメジストより高価なその瞳は笑っていない。

「あっれー?スザク。浮気中?」
「リヴァル!?」

振り向けばお茶と炭酸飲料の缶を持ったリヴァルが、それはもう、満面の笑みを浮かべていた。
いや、違う。断じて違うから。そんなにジャンケンで負けたの悔しかった?ルルにならアッシーだってやるくせに!

この後のルルの行動とその後のルルの不機嫌とそれからのフォローを考えると、僕はもう、肩を落とすしかないのでした。


[ Update : 2008.04.30 ]
























04.首にキスマークどころか昨日彼女に絞められた痕がありますが、何か?


「あら、スザクくん。その包帯、どうかしたの?」

セシルさんが訝しげに聞いてきたのは、僕の首に巻かれた包帯。
ぐるぐると幾重にも巻かれているくせに、ぴっちりと止まらないで弛んでいる。

「あは〜。もしかして、キスマーク隠しぃ?」
「それはごめんなさいスザクくん」
「凶悪なカノジョさんは随分と情熱的なんだねぇ」
「・・・見ますか?包帯の下」



「キスマークどころか、首を絞められた痕しかありませんけど」






凍りつくロイドさんとセシルさんの姿っていうのは結構貴重だと思う。
ロイドさんからは君ってそういう趣味ぃ?なんて全力で否定したくなる言葉をもらったけれど、そんな趣味はない。
基本的にルルは自分の手を煩わせることなんてしない。ルルの生まれがそうさせているのだろうけど、大抵は誰かが動く、あるいは誰かを動かしている。
ルルは小食だから体力ないし運動神経だって切れてるから、自分で自分が動くことのメリットの低さを自覚してるんだと思う。
そんなルルが自分から動くのは、大事な家族であるナナリーを除けば僕だけ。

「嘘つき」

人前じゃ絶対に泣かないルルが目じりに涙を溜めながら、何度もそう言って僕の首に手をかけた。
約束の時間をとうに過ぎたクラブハウスの前。
ごめんねを言わせてくれないルルを抱き寄せて、好きなだけ絞めさせてあげる。握力なんてろくにない細い手が力を入れては疲れて弱まり、そしてまた力が入ってぴくぴく震えてた。

「っは・・・・・・うそ、つき」

ルルが力尽きるのはあっという間で、解放されても息を吸いすぎて咳き込むなんて真似をしないで済む時間しかたっていなかった。

「ごめんね、ルル。遅れてごめん」
「ばか」
「うん。ね、今日の夕飯はなぁに」
「覚えてない」
「にんじんあった?」
「あったらお前が食べるんだ」
「もちろん」

謝ってなんとか中に入れてもらって、きちんとラップがかけられた夕食を温めなおして、ようやく食事が始められた。
ルルが嫌いな人参を食べるのはもちろん僕で、食後は皿洗いもやっておいた。

僕がお皿を洗っている間、なにやらルルはリビングでごそごそやっていて。
戻った僕に椅子に座れと命令する。

「首」
「うん?」
「痕、ついたから」

手に持っていたのは包帯。

「別に、大丈夫だよ?」
「うるさい」
「制服で隠れると思うし」
「私は、黙ってろと言ったんだ」
「うん。じゃあ、お願いするよ」

床に膝をついて、椅子に座る僕の首に手を伸ばしてくる。
包帯の先をどちらの手で持つかで悩んで、巻き始めをどこで固定すればいいのかで悩んで、どのぐらいまで巻けばいいのかで悩んで、結局包帯を全部使い切るまで巻いていた。
最後の始末もわからなくて、適当に包帯の間にねじこんでいた。
もちろんそんなやり方で固定できるわけなんかなくて、包帯はゆるゆるでぐちゃぐちゃ。

あぁ、眉間に皺がよっちゃってる。いつも強気な目が頼りなさ気な色を湛えてしまっている。
できなくて当たり前なんだよ。僕のためにできないことをしてくれてありがとう。

「ありがとう、ルル」






うん。本当に昨日は軍を出る前にシャワーを浴びておいてよかった。
だってルルが必死に巻いてくれた包帯、解くなんてもったいないじゃないか。
ルルは僕の何倍も頭がいいのに、そういうとこには全然頭が働かないみたい。それでもっていつもは上手く回る口が僕相手だと全然ダメで、体力じゃ絶対叶わないってわかってるくせにすぐに手が出る。
例えばその一つが昨日みたいな首を絞めるって行為になるわけで。
言葉にしたらどうなるのかな。
なんて考えるとつい頬が緩んでしまう。

だから僕は、包帯の理由がキスマークじゃなくても構わない。


[ Update : 2008.04.19 ]
























05.できれば、プレゼントは手渡しでください。力の限りに投げ付けるんじゃなくて。


ルルのことなら都合のいい僕の記憶容量は無限大になるから、どんなことだって覚えている。
そう、それは12月のあたまだった。

「ルルちゃん!クリスマス、どうするの〜?」
「気が早いですね。まだ2日ですよ?」
「イベント準備は1ヶ月前からでも早くはないのよ」
「イヴは生徒会主宰のパーティー。当日は家で過ごしますよ」
「やーねぇルルちゃん。お姉さんはスケジュールを聞いてるんじゃないわよ」
「?」
「会長!ダメですよルルにそんな聞き方じゃ」
「なんなんの?シャーリー」
「あのね、ルル。会長は、クリスマスにスザクくんに何あげるの、って聞いてるの!」
「本国だと家族と過ごすってカンジだけど、こっちは恋人と過ごすのがメジャーになってきたもんねぇ。恋人へのプレゼントは重要よ!」
「こ、ここここここ!?っ、誰がですか!!」
「もちろんスザ」
「わーわーわー!!」

「・・・もしかしてルルちゃん、私たちにナイショのつもりだった?」
「え〜?ニーナ、それはないでしょ?照れ隠しじゃ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「嘘!?ルルってば、本当に気づかれてないと思ってたの!?」
「・・・・・・・・うるさい」
「ごめんね、ルルちゃん。ミレイちゃんの勘って、よくあたるから。はい、コレ」
「・・・・・・・・なに、この写真」
「う〜んと、放課後の生徒会室、または記念写真、もしくは証拠写真、かな?」
「ニーナのカメラの腕前はプロ級ね。ちなみに、題してっ」
「言わなくていいです言わないで下さいお願いします!!」
「安心してね。この写真はSランクだから」
「なにそのSランクって」
「生徒会専用。一般の生徒には絶対に出回らないから、安心してね」
「・・・ネガと写真、いくら?」
「こら!お姉さんはお金で解決しようとする子に育てたつもりはありませんよ」
「私は無断で人のプライベート写真を撮影して売りさばくような姉を持った覚えはありません」
「シャーリー!私たちの妹は反抗期に入ってしまったようよ!」
「逃げないで下さい」
「やーねぇ茶化してるのよ。逃げてるのはルルちゃん」
「私は逃げてません」
「じゃぁスザクにクリスマスプレゼントあげるのね?」
「・・・・・どうしてそこに戻るんですか」
「やーねぇルルちゃん。お姉さんは心配してあげてるのよ?いい?さっきもいったけど、イレブンじゃ恋人にクリスマスプレゼントを贈るのはごくごく一般的になってるの」
「ただでさえルルは普段が普段なんだから、こういうときくらい彼女らしいことした方がいいよ!」
「か、彼女らしいことって・・・」
「私、スザクくんはルルにプレゼント用意してると思うな〜」
「ルルちゃんにプレゼントするものだし、お給料もちゃんともらってるから、きちんとしたものを贈ると思う」
「そうよねー。それできっと」

「ルル、これクリスマスプレゼント。こっちはナナリーに」
「?昨日みんなで交換したじゃないか」
「うん。だけどちゃんとしたものあげたくて。もらってくれる?」
「私は何も用意してない」
「いいんだよ。僕があげたいだけだから」

「みたいな展開で〜」
「ルルには綺麗な宝石のはいったネックレスで、ナナリーちゃんにはかわいい髪留め、もしくはルルにあげたののミニチュア版のアクセサリーってとこかな」
「セオリー通りに指輪かも」
「スザクにはまだはやいんじゃない?っていうか、ルルちゃんには、かしら」



女性陣の楽しそうに笑う声。
ルルの怒ったような声ととりなす声。
扉越しに聞こえたのはそこまでで、けれど破壊力はその段階ですでに充分で。

「スザク・・・がんばれよ」
「ありがとうリヴァル」

思わず遠くを眺めてしまった僕の肩に手を置いて、労わってくれるリヴァルに感謝した。



そしてクリスマスイヴ。生徒会主催でのパーティと、生徒会だけでのパーティがあった。生徒会室にはクリスマスツリーが飾られて、登校してすぐに生徒会メンバーへのプレゼントを置いた。パーティ後、生徒会室で二次会状態でプレゼント交換をした。
クリスマスはルルの家で過ごした。ルルとナナリーとゲームをしたり豪華な夕食を食べたり。幸せな一日。帰り際、玄関まで見送ってくれたルルにプレゼントを渡した。
1ヶ月前には目星をつけて、ラッピングがクリスマス仕様になってから購入したプレゼントが。えぇ。イベント準備は1ヶ月前からでも遅くはないんです。
会長とシャーリーが真似ていた通りの展開な上に、プレゼントの中身まで当てられていて買いなおそうか悩んでしまったけれど、結局最初に選んだもののまま。

「今日はありがとう。ルル、これクリスマスプレゼント。こっちはナナリーに」
「・・・・・・・・・昨日みんなで交換したじゃないか」
「うん。だけどちゃんとしたものあげたくて。もらってくれる?」
「私、は。何も用意してない」
「プディング、とっても美味しかった。プレゼントは僕があげたいだけだから、気にしないで」

あぁ本当にそのまんま。僕はあの会話を聞いていないはずだから精一杯のポーカーフェイス。
元からルルが何かくれるなんて期待してなかったし、クリスマスに一緒に過ごせたことが一番の贈物だって思ってる。
っていうか、ルルの場合、あんな風に言われたら逆に意固地になって何も用意しないだろう。

「ありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ、またね」

背を向け、歩き出す。
吐く息は白い。
明日の予定を考えながら校門を抜ける。
静まりかえった学園には僕の小さな足音だけ。

だったのに。
誰かの走る音が聞こえて振り返る、瞬間。

「―――っざく!」

声とともに顔面に飛び込んできた黒影。
反射的に右手を出せばバシッ!と音が上がる。
ピリっと痺れる手。受け止めたのは長方形の物体だった。

「ルル?」
「おかえしだ!さっさと帰れ!」

白い息。赤く染まった頬。揺れる黒髪。
思わず伸ばした右手にはクリスマスプレゼントがあって、とても開けはしなかった。

できれば来年は手渡しして欲しいな。そうしたら右手にプレゼントがあっても、君が逃げる前に抱き寄せられると思うんだ。


[ Update : 2008.05.07 ]










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