恋に落ちて5つのお題 ... Title by TV


01.きっかけが必要です
02.いまのってセーフ?
03.さぐり合いはもうおしまい
04.るすばん電話の声がすき
05.雨の日はフマジメなキスを
























01.きっかけが必要です


秋風にゆらゆらと遊ばれる黒髪。丁寧に腰まで伸ばした髪の指通りの良さを知っているのは、わたしだけでいい。早い歩調に抜かされたそこの男子学生。ぼーっと見てるんじゃない減るでしょう。
自分の顔の良さを武器にする術は知っている癖に、寄せられる好意には無頓着な幼馴染。簡単にさらさらと流れる髪も白魚のような手も預けてしまうから目が離せない。わたしにしか許しちゃダメだよなんて冗談でしか言えない自分が不甲斐ない。
ため息ひとつ、ついて駆け出す。誰かと遭遇する前に隣をキープしなきゃ。
「おはよう!ルルーシュ」
「…っスザク!」
後ろから飛びつけば焦る声。いい天気だねルルの瞳が綺麗に光を反射してる。
「びっくりした?」
「した。せめて足音を立てて欲しい」
「足音しなかった?」
「しなかった」
「えー?でもルル、後ろから走る音しても振り返らないでしょ?」
「でも、注意くらいはする」
「ほんと?」
「本当に」
「じゃあ明日はちゃんと音立てて走るね。気づかなかったらクレープ」
驕りだよ、とまでは言わないでルルを見る。面白そうに瞳を細めてルルがお店をあててくる。
「駅前の?」
「そう。マロンフェア始まったんだよ」
短い言葉で通じる幸せ。恋人は目と目で通じ合うんだって。それなら簡単にできるのにね。
「ふぅん。ま、私の勝ちだろうけどね」
「言ったね!?」
「負けても文句言わないでよ」
話しながら、さりげなくルルが鞄を持ち返る。わたしのいる右手から左手へ。鞄一個分の面積近くなる。そんな小さな優しさと縮まる距離でこんなに嬉しくなるなんて、いくらルルでも思い浮かばないでしょ。
ルルには散々バカにされるけど、これでも精一杯頑張って頭使ってるんだよ。
どうしたら明日の約束ができるかなって。


[ Update : 2009.04.01 ]
























02.いまのってセーフ?


うららかな午後の光が教室いっぱいに差し込んでいる。
窓の外に目をやれば、時折風に吹かれて木の葉がゆらゆらと揺れているのが見て取れる。
そんな気持ちの良い時間の中でブリタニア史の授業が耳に入ってくるわけもなく、ショートカットの先生の声は右から左へ。高すぎない声は転寝をうながすには丁度よくて、まるで外国語の曲でも流されているみたい。
それでも机に突っ伏して寝られないのは、わたしが名誉ブリタニア人だから。もう諦めたことだけど、ブリタニア史の授業で当てられなかったことなんてない。
授業の残り時間はあと20分。一番しんどい時間帯じゃないかと思う。
あぁほら、目があった。
「では、枢木さん。この時……」
教科書をパラパラとめくるポーズだけして、わたしはいつもと同じ返事をする。
「すみません、わかりません」
「またですか?あなたは毎回毎回、そればかりね。きちんと予習をしてきなさい」
「すみません」
「補習プリントをあげますから、放課後、研究室にいらっしゃい」
「わかりました」
しおらしく頷いて視線を机に。反省。
物足りなさそうだけれど、センセイはひとまず満足した模様。
再び言語として認識できない音が流れ出したかと思うと、不意に、視線を感じた。
顔をあげてみれば、ばちりと合う、アメジスト。
あぁ、綺麗な顔が台無しだ。
眉をひそめて、口唇をきゅっとかみ締めて、ルルーシュがわたしを見ていた。
いつものことなんだから、気にしなくていいのに。

だいじょうぶだよ

本当は駆け寄ってぎゅっと抱きしめてその耳介に吹き込みたいけど、がまんした。口を開閉させてにっこり笑って、大丈夫って精一杯伝えるだけ。
でもルルはそれがお気に召さなかったみたい。で、キッと瞳を鋭くすると、それきり前を向いて二度と視線はくれなかった。
残念。
仕方ないからセンセイの声をBGMに、烏の塗れ羽色した髪が白皙の頬を撫でるのをじっと見つめていた。




「スザク」
チャイムが鳴り終えた途端、ルルが私の前までやってくる。眉間の皺はまだ取れてない。
「何?」
「放課後」
「うん」
「放課後、私も一緒に行く」
ルルの声はとても悔しそうで、理不尽だって顔に書いてあるみたい。
こうやってルルがわたし以上にわたしのことを気にかけて心配してくれるのが、とても嬉しい。
「ありがとう」
嬉しい、嬉しい。思わずルルの手をとると、少し頬に赤味がさした。
可愛い、可愛い。わたしのルル。
次の授業が別の教室じゃなかったら、きっとチャイムが鳴るまで体温の低い手を握り締めてた。

放課後は、むしろ待ち遠しいくらいだった。
終礼をして、掃除を終えて。教室でルルと待ち合わせ。
楽しみで、思わず足をプラプラと揺らしてしまう。まるで子どもみたいだ。
「何笑ってるの?」
「ルル!」
「ごめん、待たせた?」
「全然。ルルがいつくるかなーって楽しみにしてた」
「それは待ってたっていうの」
「楽しかったからいいの」
そう返せば、ルルはちょっと呆れたみたいに笑ってくれた。
仕方ないなって笑うルルの顔が好きだと思う。
「行こう」
「うん」
鞄を手に立ち上がる。
ルルはきっと、王子様みたいにかっこよく、わたしをいびるセンセイに釘を刺す気なんだと思う。ううん。その姿は絶対に王子様よりかっこいい。
わたしを守ろうとするルルがとても愛らしい。3倍にして返すよ。わたしがルルを守ってみせる。ルルを怖がらせたり傷つけようとするものから全部、守れるって信じてる。
「ね、ルル」
「何?」
「あんまりセンセイいじめないでね?」
「いじめられてるのはスザクでしょ」
「わたしはルルが守ってくれるから平気。ルルがセンセイに目、つけられたらやだから、優しく言ってね?」
「……善処する」
「ありがとう」
なるべく自然に見えるように、手を絡めた。ちょっと困ったように笑うルルの顔も好き。
史学科研究室は3階の端、図書室の近くにある。西日が差し込むにはまだはやいけど、お日様は少し傾いて色を変えていた。
ノックを2回。失礼しますと挨拶をしてドアを開ける。
「枢木です。補習プリントをいただきにきました」
「遅かったわね」
センセイの席は窓際だった。教科書やプリントがごった返す部屋の中、センセイのテーブルは比較的綺麗に片付けられている。
「あら、ランペルージさんも一緒?」
「先生にお願いがありまして」
「何かしら」
「その補習プリントの指導と添削を、私にお任せいただけないかと思います。枢木さんはブリタニア史が苦手のようですし、毎時間答えられず補習プリントの作成や添削で先生のお手を煩わせるのもいかがなものかと思いますので」
「そう……」
ルルの提案に、わたしとルルの顔を見比べる。わたしは申し訳なさそうな顔をつくるだけ。
こういうときはルルにまかせて、わたしは黙っているのが一番いいんだって知っている。
「先生の授業は教科書のみならず、先生の知識の中で私たちが興味を持てることをたくさん教えてくださいます。枢木さんひとりに授業時間の一部が割かれてしまうことは、私たちにとって残念なことでもありますし、枢木さんにとっても、ブリタニア史を苦手に感じてしまってはマイナスにしかならないことと思います」
「まぁ…あなたのいうことも一理あります」
「枢木さんの補習プリント、私に任せていただけますか?」
「そうねぇ。でもあなたは生徒会が忙しいんじゃないの?」
「人に教えることは自分の復習にもなりますから、大丈夫です」
「枢木さん、あなたはどうなの?」
「答えられないことが多く、心苦しく思っていました。がんばって勉強します」
「……いいでしょう。ランペルージさんが教えてあげてちょうだい。提出は不要です」
そう言うとわたしの手にプリントの束を押し付けた。
「ありがとうございます」
「失礼しました」
一礼して、退室。ルルのあたりも比較的柔らかかったし、センセイもあっさり了解してくれてよかった。
ちらっと横目で伺うと、ルルは少し不満そう。もっとチクチク刺してやりたかったんだろうけど、わたしはもう十分。
だってルルとお勉強できるんだもん。
「どこでプリントする?」
「今日は生徒会もないし、私の家でいいでしょう」
「もしかして、お夕飯も一緒していい?」
「当然」
「ありがとう!!」
ルルに飛びついて、ほっぺにキス。
これならセーフでしょ?

「なんでスザクはそんなにスキンシップ過剰なの」
「ルルだけだよ」
「懐きすぎ。スザクを見てると時々尻尾と耳が見える気がするよ」
「ワン!」
もう一回、手を絡めた。大きく振って、仲良しのポーズ。
クラブハウスまでの距離がもっともっと長ければいいのに。




ルルの部屋はいつも整理整頓されていてモデルルームみたい。
クッションの上にちょこんと座って、早速面倒なプリントを開いた。テーブルの上には咲世子さんが用意してくれたオレンジジュースとクッキー。
形がちょっといびつなのは、ナナリーが一緒に作ったからなんだって。ルルはハートみたいな形を手にとって、それを宝物みたいに眺めてから、ゆっくり口の中に入れた。
「しあわせな味がする?」
「……なに、それ」
「んーっと、ルルがしあわせそうに食べるから、しあわせな味なのかなーって」
「いつから詩人になったの?」
「愛の詩でもよんでみよっか」
「ばか」
やるぞって声かけて、ルルがシャーペンをとる。
教科書不要のルルの講義。センセイの授業よりもルルがやったほうがみんな起きて聞く気がするよ。
女の子にしてはちょっと低めで、だけど艶のあるルルの声。
ちゃんと意味を持ったままわたしの頭に入ってくる。言われるままに手を動かして、括弧を埋めたり余白にメモしたり。
センセイが出しそうな問題まで予測してくれちゃう。
時折プリントから目を上げてアメジストを見れば、やさしく落ち着いた色をしてた。
目が合って、少し笑って、視線を外す言い訳みたいにルルの手がグラスに伸びる。
傾けられるオレンジの液体。
他の女の子みたいにグロスでベタついてない口唇が、ゆっくりと濡らされる。
こくん、って小さく喉が上下した。
スローモーションで映る世界から目が離せない。
伏せられていた、長い睫毛に縁取られた瞳が上げられて、こちらを見る。
とても綺麗で、独り占めしたくなった。

身体は無意識のうちに動いていて、気づけば目の前にルルの顔があった。
落ちちゃいそうなぐらいに見開いたアメジストと、至近距離で目があう。
口の中にはオレンジの甘酸っぱい味が広がっている。

学校でのキスはセーフだった。でも、これは?


[ Update : 2009.04.01 ]










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