学園中に立ち込めるのはカカオと花の芳香。そしてどこか地に足つかぬような浮遊感。
いつになくルルーシュが上機嫌なのは、不特定多数からの贈物に煩わされることがないからというだけでは、ない。
ルルーシュの機嫌の理由を知るスザクはというと、嬉しい反面、そんな無防備な表情を晒さないで欲しいと思う。
常態ですら、人目をひくというのに。
苦笑してから目を落とすのは、自分の持ってきた花束の、その下。わざわざ花束を袋に入れて持ってきた理由。
上手に花で隠した、白い箱。
生徒会室に行くときも持ち運び、なるべく目を離さないようにしてきた。シャーリーやリヴァルには贈り主を散々聞かれたけれど、もちろん笑顔で誤魔化して。
さぁ会長。どんなイベントでもどうぞ。

鳴り響くチャイムは戦争の前触れ。


チョコレート争奪戦 4



『生徒会長のミレイよ!憧れのあの人や秘めた思いを抱くあの人にプレゼントは渡せたかな!?それではいよいよお待ちかね、バレンタインデーイベントを発表するわ』
HRが終わり、一通りのざわめきが落ち着いた時間を見計らっての放送は流石。

『生徒会メンバーからチョコが欲しいか!?題して、チョコレート争奪戦〜!!』

『生徒会書記、ニーナがルールを説明します』
「いないと思ったら、ニーナは放送室なんだぁ」
呟くのはシャーリー。ニーナ以外の生徒会メンバーはHR後そのまま教室に残っている。
『生徒会メンバー6名からのチョコレートが、この学園のどこかに隠されています。なお、枢木スザクは都合が合わなかったため、数に入っていません。
立ち入り禁止の場所には、扉にバツ印の書かれた紙が貼られています。各部室やクラブハウス、先生方に関係する場所などが主です。それらの教室を探すことは禁止します。
チョコレートは全員同じ、赤いリボンがかけられた白い箱に入っています。発見した方は未開封のまま、生徒会室まで持ってきて下さい。開封したものは無効とします。
開封は生徒会室にて、会長の立会いの下行います。
制限時間は会長の合図から3時間。ただし、全員のチョコレートが発見された場合、その段階で終了します』

『たかがチョコとは思うなかれ!なんと、ぜーんぶ手作りチョコよ!!』



うぉぉぉぉぉ!!

「な、何だ!?」
どこからともなく上がる雄叫びに、思わずルルーシュはあたりを見回す。
「あー…ルルーシュは気にしなくていいから」
落ち着かせようとするスザクに構わず、軽い調子でリヴァルは答えを寄越す。
「鈍いなールルーシュって。みんな手作りチョコに喜んでるんだよ」
「…そんなものか?」
「オンナノコの手作りチョコは、普通は、オトコにとっては垂涎モノなの」
まぁルルーシュの所に来るチョコは、大抵手作りか有名店のチョコなんだろうけど。
ぼやくリヴァルに、その様子が簡単に想像できてスザクは確かにと笑みを零す。
それも、この瞬間までだったのだけれど。

『ちなみに中身は、ルルちゃんが火傷しながら作った本命チョコや、カレンとシャーリー、ニーナの本命チョコの余り、リヴァルがレシピ片手に作った危なげなチョコに、私の超美味しいチョコよ』

「ルルーシュ火傷したの!?」
「お湯がはねただけだ!跡も残ってない!!」
「ルルーシュの本命って誰!?カレンは?!」
「わ、私はシャーリーとは違う人!学園の人じゃないから!!それに、お世話になっているからあげるだけだしっ」
「会長〜危ないなんてひどくない?」
なんで知ってるんだ会長!?スザクが怒るからバレたくなかったのに。しかも本命って、どこまで知ってる!?
そんなルルーシュの心の叫びなんておかまいなく、会長の放送は生徒会メンバーに留まらず、大きな叫びを各地で呼び起こす。

「ルルーシュくんの本命チョコ!?」
「カレンさんに本命がいるなんて、おれ、おれ、どうしたらっ」
「ニーナさん!あなただけは俺の女神でいてくれると思ったのに」
「リヴァルくんのチョコならお腹痛くなっても食べてあげるっ」
「シャーリー…これだけ言われてるのに本人に気づかれないって哀しいね」
「会長のチョコ、絶対見つけなきゃ!」

いつもはカレンが心の中だけでも平和な学園につっこみを入れるところだが、頼みの綱はぷちんと切れて仮面の主に思いを馳せるばかり。
感謝の気持ちっ感謝の気持ちなの!それに、今日は召集かかっていないから渡すどころか会えもしないし!
そんなカレンをまだ疑いの眼差し見つめるシャーリー。ルルーシュの本命発言には脳が拒否反応を起こした模様。
恋は盲目。乙女につける薬などありはしない。

『みんなヤル気になった?でもまだまだ、こんなものじゃないわよー。景品は見つけたチョコだけじゃないんだからっ』

『景品の本命は、ズバリ、作った人からの「はい、あ〜ん」よ!!』



「「「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」」」
叫び声はまず生徒会メンバーから。
はい、あ〜んとは、あれだあろうか。口あけて?食べさせてあげるから。という例のアレだろうか。
「ルルーシュ!?」
「聞いてない聞いてない!どういうことですか会長!?」
詰め寄るスザクに慌ててルルーシュは首を振る。
届かないとわかっていても問わずにはいられない。
どういうことだ!?
『さぁみんな、チョコレートを食べさせて欲しかったら、死ぬ気で探しなさい!』
そうか、そういうことか。会長の「来ないと後悔する」は。
一昨日のミレイの忠告に、スザクは思わず遠い目をする。良かった、従って。
守るべき華は自分が持っている、絶対、渡さない。

スピーカーからは息を吸う音。
『― Ready Go !!』

開始の合図から一拍遅れて、男女問わずの奇声が響く。
かくて、戦いの火蓋は切って落とされた。





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