「カレンはどうして騎士になろうと思ったの?」

今日は、私にとってとても喜ばしい日。
そんな日に思い出したのは、彼の一言だった。
あれは、何年前のことだったかしら。
日本最後の首相の息子が、名誉ブリタニア人として軍属になったのは。
騎士を目指して己を磨くうちに、同じように騎士を目指す彼と出会ったのは。


彼と彼女の愛情表現 ‐1‐



彼、枢木スザクは名誉ブリタニア人として差別される中で、それでもまっすぐな何かを曲げないように、立っていた。
私はそれが何かを聞くようなことはしなかったけれど、私の中にも曲げられないものがあったし、そして私も日本の血が流れているから、なんとなく、スザクと仲良くなった。
仲良く、と言うと語弊があるかもしれない。図書室に行ったら同じ本を借りようとしていたり、成績が拮抗していたり、ナイトメアフレームの操作も互角だったりと、共通項が多いうちに会話もそれなりに交わすようになった。そんな程度だったのだから。
それでも私は、そしてきっとスザクも、どこかで同じものを感じていたのだと思う。

「カレンはどうして騎士になろうと思ったの?」

そうでなければ、脈絡もなくあんな質問はしてこない。

生半可な気持ちで騎士を目指しているわけじゃないからだと、お互い気づいているから、だから聞いてきたのだろう。
そう思ったからこそ、誰にも言わなかった言葉を言った。

「守りたいと、思った人がいるの」
そう。守りたいと思ったの。
出会ったのは本当に本当に偶然で。
ブリタニア国籍を持っていたことに感謝した。
母はきっと、私が軍人になるよりも学校で友達と一緒に勉強して遊んで、それで好きな人と結婚して家庭に入ることを望んでいたと思う。
ごめんなさいと、言ったけれど母は優しく微笑んでくれた。
ここで見ているからと。

私は父の反対を押し切り軍人になった。
私が人生を変えたいと、思った人。

「誰か聞いても?」
「教えない。わかるのは、私が彼の人に忠誠を誓う時よ」
言葉になんて絶対しない。
その人の名前をもう一度呼ぶのも、彼の前に跪く時。

私の話はこれでおしまい。次はあなたの番。
「スザクは?」
「僕は」
そう切り出すスザクは、どこか泣きそうに見えた。
「約束、したから」
彼はもう、忘れてしまったかもしれないけれど。
呟く声は、それでも忘れていないと信じたいのか、忘れられていても跪きたいのか、私にはわからなかった。
「そう」
だから、締めくくる。
「なろうね、騎士に」
「もちろん」

夢見るのは彼の人に跪く瞬間。
絶対に、現実にしてみせる。



将来を誓ったあの日から、もう何年?
スザクはその後、技術部に配属になって以来、その先を知らない。
連絡なんて取りようがなかったし、取りたいわけでもなかった。
だってきっと、いつか騎士になれば会う日が来るでしょう。

忘れていたら許さない。
私はもうすぐ、夢を叶える。
あなたは約束を果たせたかしら?





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