エリア11。
この国は今日、新しい王を迎える。

と、私は勝手に思っている。
正確には、クロヴィス総督が本国に戻り、代わりにコーネリア皇女殿下が総督に就任する日である。
副総督として、黒の皇子を伴って。

私の王様。
いつ会えるかなんてわからないけれど、今この国でナンバー1パイロットは私だ。
コーネリア総督は自らナイトメアフレームを駆る女傑。
ならばきっと、彼の人が司令塔となるだろう。
だから、いつか必ず、私は彼の人の命令通りに行動できる日が来る。

カレンと紅蓮弐式を、彼の人に捧げます。
自分勝手な誓いだけれど、断られるかもしれないけれど。
夢見るのは彼の人に跪き忠誠を誓う瞬間。


彼と彼女の愛情表現 ‐2‐



コーネリア殿下の就任式は非常にシンプルなものだった。
華美な演出を好むクロヴィス殿下とは真逆。
副総督に至っては顔見せすらなし。
皇女殿下が彼をどれだけ大切にしているかという証のよう。
だからお顔を拝見する機会すら、当分来ないと思っていた。
なのに。

「ほぅ。これが紅蓮弐式か」

軍服を着て紅い機体を見上げる人は、誰。

「久しぶりだな、カレン。本当に軍に入るとは思っていなかった」

紫の瞳が、私を見ている。
これは、夢?

「カレン?」

苦笑する彼。
呼んだのは、私の名前。
動いている。本物。

「えぇぇぇぇぇ!?」
ちょっと待ってどう考えても彼はブリタニア軍人の服装をしていてよく見れば見学者用の腕章まで付けていてなのに付いているはずの護衛すら見えなくて周りの人間は誰一人彼の正体なんて気づいてなくてむしろ私の上げた声にこちらをようやく伺うくらいでなんでなんでだって彼はこんなところに来る人じゃないのに。
「どうした?カレン」
気遣う声は主任のもの。
呼ばないで。
「すみません、自分が急に声をかけたので、驚かせてしまいました」
「カレン。こちらはアラン・スペイサー殿だ。副総督の指示で、ナイトメアフレームの視察に来られた。疑問があればその都度質問なさるそうだから、よろしく頼むな」
「お忙しい中、すみません。どうぞ、主任は仕事に戻って下さい。自分は勝手に見て回らせていただきますので」
「それでは失礼します」
何、この自然な会話は。主任、あなたの目の前にいるのがその副総督ですよ。確かに並み居る皇族の顔を覚えるのは大変かもしれないけれど、自分のいるところに赴任してくる皇族の顔くらい把握しておきなさい。
しかも、何、自分って。添えられた爽やかなロイヤル・スマイルは今日もご健在。あぁ懐かしい。
貴族どもの下らないパーティで大人全員を騙しきった極上の仮面。
でも私は知っている。仮面の下の素顔を、少しだけ。

「カレン?」
主任が立ち去ったのを確認して声がかけられる。
まだ動揺したままだったけれど、それでもなんとか返事は返せた。
「お久しぶりです、殿下」
密やかに、彼にしか届かないように。
「副総督就任おめでとうございます。まさか、こんなに早くお会いできるとは思いませんでした」
「煩いのを振り切ってきたんだ。お前がここにいると聞いたからな」

絶対、今、顔が赤くなった。
どうしよう。熱い。

「殿下」
「カレン。俺はあの約束を果たせる位置にまで来た」
ブリタニアをぶっ壊せと言った幼いあの日。
けれど約束したのは、私と、彼の大切な友達の国を取り戻すこと。。
「覚えているか、あの時交わした言葉を」
忘れるわけがない。糧にして、ここまで来たのだから。
「カレンがルルーシュの剣になって、カレンがルルーシュを守ってあげる」
会うことが出来たのはほんの数回。
退屈なパーティでこっそりとお話しをしていた。
「許されるのなら、誓いを」

笑みを浮かべて彼は私に右手を差し出す。
軍服を着た彼とパイロットスーツのままの私。
紅蓮弐式の前で、私は、夢に見た光景を再現する。
跪き、その白く滑らかな右手に、キスを。

「私、カレン・シュタットフェルトは、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに永遠の忠誠を誓います」
声は震えていなかっただろうか。
これは本当に醒めないだろうか。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの名において命ずる。カレン・シュタットフェルト。我が騎士となれ」

見上げた彼の瞳はとても綺麗だった。
この時彼が浮かべていた笑みを、私は絶対に忘れない。

「行くぞ、カレン」
「はっ」
踵を返す彼の後ろについていく。
主任の慌てた声がようやく響く。
「カレン!?」
「悪いな主任。エースパイロットと紅蓮弐式はもらっていく」
あぁ、視察はただの口実で、彼の目的は、私だったんだ。
「主任、今までありがとうございました」
涙は堪えられた?
「まさかあなたが…副総督!?」
「詳しい沙汰は追って知らせる」

迷いなき足取り。
夢に見た、私が守る道。





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