私も貴方も彼も彼女もみぃんな仮面をつけている。
本音は隠して上辺だけの綺麗な笑顔。

でも今は、顔という仮面を外して代わりにマスクをつけましょう?
今宵は仮面舞踏会。
さらけ出すのは、本性。


仮面舞踏会 前



ユーフェミア・リ・ブリタニアの騎士である枢木スザクは、呆然としていた。
お姫さまの不可解な行動はいつものこと。けれど今回ばかりは、勘弁してもらいたかったと溜息をつく。
仮面の、下で。

「スザク、今日は仮面舞踏会に行きましょう」

そう言われて、断れるはずなんてない。
彼女の言葉はそのまま命令にすり代わる。どんな些細なワガママでもお願いでも、命令を受けるスザクにとっては同じことだ。
本人が、どう思っているかは別として。
だから今日も、昨日とこれからと同じように答えた。
「わかったよ、ユフィ。でも僕は、そんな会に行ったことはないんだけれど、大丈夫かな?」
主を愛称で呼ぶのも、くだけた口調もすべてお願いという名の命令によるもの。スザクの身はがんじがらめに縛られている。騎士という、契約によって。
それに見合う対価があるから、スザクは甘んじてその鎖に縛られ続ける。
「大丈夫ですよ。みんなマスクをつけて、誰だかわからないのを楽しむ会ですから」
「へぇ。じゃぁもし僕が粗相をしても、マスクを外さなければ大丈夫かな?」
「もちろん。ダンスの時にお相手の足を踏んでしまっても、きっと大丈夫ですよ」
くすくすと楽しそうに笑いあって、主の用意した騎士服に身をつつんだまま。
「でもユフィには僕のことがわかるし、僕はユフィのことがわかるんだよね」
「そうですね、だって私が用意したお洋服ですし、スザクに私がわからなかったら困るでしょう?」
主と騎士の関係はいつまでもついてまわる。騎士の役目は主を守ること。それが出来なければ騎士失格だ。
「うん。ありがとう。楽しみにしてるよ」
ありがとう、ちゃんと護衛のことも考えてくれて。
自然に見えるように、違和感なんて与えないように、立ち上がる。
「もう行ってしまうんですか?」
「仮面舞踏会の前に、ダンスのおさらいをしておくよ」
「まぁ」
軽い冗談でその場を辞す。主の宮の中だけは、護衛という役目から少しだけ解放されるからありがたい。
休息がなければ、いくら納得して理解できていてもやっていられない。
仮面舞踏会なんて、聞いただけでも簡単に想像できる。
貴族や皇族にとっては華やかで一風変わったパーティでも、護衛と暗殺者にとっては鮮血のパーティとしか受け取れない。
「ふぅ」
溜息をついた自分を叱咤するように頭をふり、スザクはいつもの訓練場所に向かう。木々の間、木漏れ日の差す温かな場所。精神を統一できる、大切な場所。
木の枝に置いてある木刀を取り、いつものように、自身を鍛え始める。

それを、唯一見下ろせる窓に薄桃色の髪が揺れていることなど、いつものように気づかずに。

「お姉様。私は今日、賭けをします」
決意を込めた呟きに窓ガラスが曇る。眼下の白い服は隠れて、見えなくなった。






賭けるモノはなぁに?
勝ったら何がもらえるの?負けたら何を、失うの?
さぁマスクをつけて、勝負。





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