・川原由美子『観用少女』のパロディです。
・原作の店主さんを登場させています。
・ルルーシュは観用少年です。少女ではないのでご注意下さい。
・スザルルと若干シュナロイです。







[1] ウィンドウ・ショッピング


「その角、右」
つまらない、と大きく書かれたような顔で、スザクの上司であるロイドはそう指示をした。
助手席から飛ばされる指示通りにスザクはハンドルを切る。その役目は普段ならば上司の補佐官であるセシルが行っているのだが、今日は休みをとっているため、普段ならば後部座席に収まっているスザクがその役目をおおせつかったのだ。
もちろん本来であれば後部座席、特に、運転席の後ろに上司たるロイドが座るのが常識である。が、何故かこの上司は助手席に座りたがる。したがってスザクが後部座席におさまる、という構図が出来上がるのだ。
これではブリタニアコーポレーション日本支社の開発部は変わり者ばかり、との風評も致し方ない。
もっとも、開発部の人間でそのことを気にする者など一人もいない。開発部がそのように語られるのは、社長たるシュナイゼルからの評価が高く実績も上げていることへのやっかみが多分に含まれていると理解しているからだ。セシルに言わせれば、変人との評価は「正しい評価ですね」となるのだが。
そんな変人の筆頭は非常にご機嫌麗しくない模様。
カーラジオすら流していない狭い車内の空気は、重い。
「あの、ロイドさん」
不機嫌の理由を尋ねられるわけもなく、スザクは目的地でも尋ねてみようかと口を開く。
それが地雷とも知らないで。
「結構走りましたけど、どこまで行くんですか」
そう尋ねたときの、ロイドの顔。
「そうだなぁ。出来るなら今すぐとって引き返して、会社の社長室のドアをブチ破りたいねぇ」
にっこりと、普段では考えられないほどの爽やかな笑顔。
「すみません何でもありません」
自分は部下!今は運転手!!
スザクはそう言い聞かせ、指示通りにウィンカーを出した。
ロイドとシュナイゼルの付き合いは長いはずだが、ロイド曰く、相性はサイアク、らしい。
けれどその割には長い付き合いですよね、なんて立ち入るような地獄の釜を覗くことと同意義な自殺行為は当然のことながら遠慮させていただきたいので、この話題はここでお仕舞い。
タイミング良くロイドから声も掛かったので二重になった三角ボタンをプッシュしてゆっくりと道端に車を停める。
ロイドはスザクがドアを開ける前に素早く自分で外に出た。
遅れたスザクの目に映るのは、まるで写真から切り出したような石畳と立ち並ぶ古めかしい家、家、家。少し視線をずらせば噴水とモニュメント。空には落ちかけの太陽と白濁色の月。
しかしそんな景色も男二人には猫に小判豚に真珠とでも言ってやりたいほど無意味なもの。浮かぶのは、こんな景色がまだ残っていたんだという程度の都会に毒された感想だろう。
ただ、そんなスザクでさえ感嘆の溜息を漏らすのは、一軒だけに嵌められた大きな一枚ガラスの向こうで儚げに目を瞑る、人形。
「う、わぁ」
今にも動き出しそうな程、精巧な人形はきっと自分の給料1年分はたいても手が届かないのではとスザクに思わせた。
ウィンドウショッピングって素敵な言葉だな。
狭い車内とロイドの放つ空気から解放されたことも相まって、スザクは明るくそう思えた。
こんな子が家にいたらとてもじゃないけど不安でどこにも出かけられないし絶対に落ち着いていられない。見ているだけで充分。こういうのを、眼福、って言うのかな。
一歩、近づいてじっくりと眺めた。

「何、見蕩れてるのかなぁ。君も、そういうのがタイプなわけぇ?」
「っロイドさん!?驚かさないで下さいよ」
不意に声をかけたロイドは先程に輪をかけて不機嫌。
自分が何かしたのかと焦るスザクは慌てて弁明をする。
「僕はただ、綺麗だけどその分高そうだなって思ってただけですよ」
ウェーブのかかった金色の長い髪。ピンクを基調として淡い色から濃い色までの薄い布を何枚も重ねたかのような柔らかで気品のあるドレス。
「ま、君の年俸じゃ無理だろうねぇ」
「買おうとも思いませんよ。人形遊びをする歳でもなければ、こんなにすごそうな人形を飾るような部屋でもありませんし」
自分の分はわきまえなければ。
そう言ったスザクに、ロイドは人形?と面白そうに唇を歪めた。
「君は知らないんだぁ。これはね、人形じゃなくて『観用少女』って言うんだよ」

ロイドはそう言い放って、ドアを開けた。
看板もなければ表札すらかかっていない、やけに細工が綺麗な扉を。

カラン

鳴ったのは、芝居の始まりを告げるベル?





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