上手な角隠しの奪い方


シンドバッドの冒険書22巻によると、ジャーファルは7本の角を生やし火を吹くという。果たしてそれは真実か。
魔法道具を使えば火を吹いたようにみせることはいかにもたやすく思える。しかし角はどうだろうか。彼は常にクーフィーヤを纏い、その下を見ることは叶わない。脚色が加えられているとはいえ、実在の人物を書いている本である。何か秘密があるのではないか。
シンドリアの子どもたちは、彼の袖口から魔法のように甘いお菓子や熟れた果実が取り出されるのよく知っている。だからその手が口元に添えられた途端に火を吹こうとも、何の不思議もない。ならばクーフィーヤの下に角が隠されていても、おかしくない。さすが覇王の側近というものだ。
けれどアリババたちは違う。何もないところから火を生み出すには、魔法道具と魔力が必要なことを知っている。けれど角はどうだろうか。誰にでもあるものではないが、己の知らない部族には生えているのかもしれない。
隠されているものを暴きたいという好奇心はひどく純粋で、強かった。

アリババは、冒険書を読んで以来ずっとジャーファルを見かける度そのクーフィーヤに隠された角を想像してしまう。
シャルルカンとの訓練の短い休憩時間の合間にも、廊下を歩くジャーファルを見かければ揺れる緑の布を注視してしまっている。
「ジャーファルさん、気になってるのか?」
「……うわっ!師匠!?」
無意識に集中してしまっていたらしい。耳元で聞こえたシャルルカンの声に飛び上がる。
振り返れば師はまだまだだなと楽しそうに笑っていた。
「どうした?」
シンドリアの空は眩しい程に明るく、日に焼けた肌を惜しげもなく晒すシャルルカンは強く美しい。
自分の考えがひどく子どもじみたものに思えて躊躇したが、急かさずに待つシャルルカンに意を決して打ち明けた。
「ジャーファルさんには、角が生えているのかと思ったんです」
「つのぉ?」
「その、シンドバッドの冒険書に、角が7本あって火を吹く、と……」
尻すぼみになってしまったが、それでも師匠は見たことありますかと疑問をぶつける。
「あーそういえば聞いたたな。マスルールがやたらデカくなってるってのと一緒か」
「火は魔法道具があれば使えますし、マスルールさんも体格がいいじゃないですか。でも角って、どうなんだろうと思ったんです」
少し照れくさそうに視線を彷徨わせているが、好奇心は隠しきれない。
「本当に角があったらどうするんだ?」
「…………それは、考えてなかったです。知りたいなって思って。でももし本当にあって許してもらえるなら、触ってみたいですかね」
変だろうかと頬を掻く仕草は邪気のないもので、その言葉に嘘はないと信じさせるだけのものがあった。
本当に角があってそれを隠すならばそっとしておけばいい、というのが大人の理論だが、子どもは純粋だ。
余計な勘繰りをしたかな、とわずかに反省しつつ、それならば協力してやるかとシャルルカンは考えを巡らせる。
弟子は真面目に訓練に取り組んでいるし、他の二人も強くなってきているという。
それならば、疑問は自分の力で解決するべきだ。

「よしっ!午後、ジャーファルさんと訓練な」
「えぇ!?」
「俺はジャーファルさんの予定押さえておくから、お前はアラジンとモルジアナに声かけておけよ?ジャーファルさんのクーフィーヤ、取ってやろうってな!」





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